Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
「うん?」と喉を鳴らし、慧弥が首を傾げた。

「まだ妊娠初期なので、性別はわかってませんよ? もし男の子なら、……再来週あたりにはわかるって、先生が言ってましたけど」

 想乃は瞳をひょいと持ち上げ、考えるように視線を巡らせる。

「そっか」

 慧弥は呟き、手にしていた青色のシューズを棚に戻した。

「慧弥さん、男の子がいいんですか?」

 想乃が嬉しそうに口角を上げて尋ねる。うきうきと声を弾ませる彼女を見て、慧弥は「うん」と頷いた。

「名前もさ……なんとなくだけど、“駈”とかいいかなって」

 ふっと口にした途端、胸の奥に妙な既視感が広がる。

「名前まで考えてるんですか?」

 想乃が楽しそうにくすくすと笑う。

「……最初にあげられる……プレゼントだから」

 言いながら、慧弥はわずかに頬をこわばらせた。

 なぜだろう。何かがおかしい。胸の奥底で、得体の知れない違和感が燻る。

 ——まるで、“自分のものではない記憶”が、一瞬脳裏を掠めたような。

 だが、それが何なのかまでは分からない。

「どんな字を書くんですか?」

 想乃に問われ、慧弥はスマホを操作する。『駈』という漢字を出し、「自ら走るって意味があるし、いいなと思って」と目を細めた。

「……へぇ」
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