Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
彼の外見、雰囲気に触れて、わけもなく強烈に惹かれるこの感情は、タレントやアーティストに抱くファン心理に似ている。スイーツプリンスの名前や年齢、人となりといったあれこれを知らなくても、勝手に憧れて勝手にときめいている。ゆえに推し活。
恋などしている場合ではない。今の生活環境からは抜け出せないのだから。
「お疲れ様でした」
バックヤードで退勤処理をして着替えを済ませる。同じ時間帯で働いていた同僚に挨拶をしてから外へ出た。
どんよりと分厚い雲に覆われた空を見上げて、つい嘆息がもれる。次は清掃の仕事だ。想乃は一度マスクを外し、目の前の青信号を渡り切った。
駅付近にある雑居ビルを目指した。歩道を歩いている途中、ポロンと弾ける音色が聞こえ、ふと足を止める。
ストリートピアノだ。“どなたでもご自由に演奏できます”と書かれた看板が立てられている。
つるりと光沢を帯びたグランドピアノに向かって鍵盤を弾くのは、高校生ぐらいの女の子だった。彼女が奏でる音色を聴きながら、かつては自分もああして弾いていたのだな、と過去に想いを馳せた。
ーー「お母さんは想乃のピアノが一番好きよ。音がキラキラしてるもの」
母の嬉しそうな声を聞いて父も「そうだね」と同意する。
恋などしている場合ではない。今の生活環境からは抜け出せないのだから。
「お疲れ様でした」
バックヤードで退勤処理をして着替えを済ませる。同じ時間帯で働いていた同僚に挨拶をしてから外へ出た。
どんよりと分厚い雲に覆われた空を見上げて、つい嘆息がもれる。次は清掃の仕事だ。想乃は一度マスクを外し、目の前の青信号を渡り切った。
駅付近にある雑居ビルを目指した。歩道を歩いている途中、ポロンと弾ける音色が聞こえ、ふと足を止める。
ストリートピアノだ。“どなたでもご自由に演奏できます”と書かれた看板が立てられている。
つるりと光沢を帯びたグランドピアノに向かって鍵盤を弾くのは、高校生ぐらいの女の子だった。彼女が奏でる音色を聴きながら、かつては自分もああして弾いていたのだな、と過去に想いを馳せた。
ーー「お母さんは想乃のピアノが一番好きよ。音がキラキラしてるもの」
母の嬉しそうな声を聞いて父も「そうだね」と同意する。