Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
 ふたりの笑顔を思い出し、不意に胸が締め付けられた。視界がぼんやりと(かす)む。

 想乃は小さく(はな)をすすり、今も鳴り続けるピアノの音色に背を向けた。

 雑居ビルの一階にある清掃会社『ハローハロークリーニング』へ出勤する。今日の担当場所をホワイトボードで確認すると、先輩社員とともに大手株式会社へ行くよう指示が出ていた。

 ロッカーに私物を入れる。想乃はいつものように水色の制服に着替えて紺色のキャップを被った。胸の下あたりまで伸びた髪を黒いゴムでひとつにまとめる。いつもはクリーム色のシュシュも付けているけれど、どこかへ落としてしまったのか、数日前から見当たらない。髪から外れたのは移動中なのか、はたまたコンビニのアルバイト中なのか。定かではない。

 会社用の車に乗り込み、先輩の運転で清掃先へ向かった。立派なオフィスビルの地下駐車場に車を停めて、警備員さんに挨拶をする。会社のIDカードを見せて訪問を許可された。

 清掃用のゴンドラを押しながら、先輩とともに各部署のフロアを回り一括でまとめられた大きなゴミ箱からゴミ袋を回収した。デスク(わき)にも個人のゴミ箱があるのだが、会社のデータ漏洩があってはならないので、デスクに近づくことはない。
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