男装して婚約者を演じていたらお兄様に目をつけられてしまいました
 丸留さんが迎えにきたのだろうと立ち上がりインターフォンに向かう。だが、チャイムはイタズラかのように何度も何度も鳴らされる。丸留さんも心配になって我を忘れているのだろか。インターフォンの通話ボタンを押すと、画面に男性が映った。
 白髪ではない。
 背が高く、画面に収まろうと屈んでいるのか、威圧感がすごい。

「ルココ、ルココは無事か!」

 後ろを振り向くとニコニコと微笑むルココちゃん。
 私は無言で解除ボタンを押した。

「SOSはお兄様にも出しましたのよ」

 そうだよね。頼人さんに言わないわけないよね。
 紅茶を淹れ直している最中に念のためにと玄関に向かい鍵を開けた瞬間チャイムがなった。ドアを開けると鬼の形相で頼人さんに肩を掴まれた。

「ルココ!」

 次の瞬間、掴んでいるのがルココちゃんじゃないと気づいたのか私をぶん回し、靴を脱ぎ捨てて部屋に入っていく。
 肩が抜けるかと思った。
 シスコン兄よ、冷静になりたまえ。
 頼人さんの背中を廊下で見守っているとひょっこりルココちゃんがリビングから顔を出した。 

「お兄様」
「ルココ、無事だったか」
「はい。ルココはこの通り無事でございます。世奈様がお紅茶をご用意してくださっていますの。お兄様も一緒に召し上がりませんこと?」

 頼人さんは心配そうにルココちゃんの体を見ながら、ルココちゃんに連れられてダイニングに移動した。私は淹れたての紅茶とクッキーをテーブルに置く。

「お兄様、クッキーもどうぞ」

 ルココちゃんの誘導で頼人さんはクッキーに視線を移す。一つ手に取りじっくりと見る。

「これルココが最近気に入っているクッキーじゃないか」
「ええ。世奈様から頂いてわたくしも大好きになりましたの」

 ルココちゃんは嘘がとても上手だ。

「大柄の男性方に囲まれた時は怖くて怖くて仕方ありませんでしたが、世奈様がそばにいてくださり、わたくしの大好きなお紅茶とクッキーでもてなしてくださって沢山ご本のお話をしていただいて落ち着きましたわ」

 話ししてくれてたのはルココちゃんだけどね。
 ここで私が口を挟んでは藪蛇になってしまう。だからいつも通り口を注ぐんで穏やかな表情で淡々と邪魔にならないように気配を消す。

「そうか。ルココを助けてくれてありがとう」

 頼人さんは私のに視線を移して丁寧に頭を下げた。
 まさかお礼を言われるなんて思ってもいなかった。でも、そうか。頼人さんだって怖かったはずだ。可愛い妹が助けを求めて何もできない自分に苛立っただろう。自分の目で確かめなければならないほどに心配して、声を聞いて笑顔を見て心から安心して、無事でいてくれたことに安堵したんだ。わかるよ。きっと私だって弟や妹がそんな目に遭ってたらいてもたってもいられないもん。自分が代わってやりたいって思うもん。よかったですね。無事でいてくれて。
 笑顔になると顔を上げた頼人さんと目があった。

「お兄様、わたくし少し横になって休みたいのでお家まで送ってくださいますか?」
「ああもちろんだ」
 
 長いは無用と一気に紅茶を飲み干すと、彼らは帰って行った。
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