男装して婚約者を演じていたらお兄様に目をつけられてしまいました
「まあ、俺が作れる時間はたかが知れているが、君がその限られた時間でルココに見合う男になれるよう協力してやらんこともない」

 協力してあげると素直に言えないのは私をまだ怪しんでいるかシスコンすぎて妹の想い人の存在を受け入れきれないからか。でも時間ができるというのはルココちゃんにとっていいことだ。笑顔を浮かべできるだけ低い声で伝える。

「ありがとうございます」

 いつもはルココちゃんがいるから頼人さんと目が会うことは滅多にないが、今日はルココちゃんがいないせいでよく目が合う。頼人さんも気まずいのか、引き攣った笑みを浮かべている。

「パン、もっと食うか?」

 小皿に乗ったパンが一欠片なっている。とても美味しくてパクパク食べてしまった。惜しくて残していたが、お代わりできるならお願いしたい。

「はい」

 笑顔で答えると、頼人さんは店員を呼んで追加を頼んでくれた。食事が美味しいせいでお酒も進む。ワイングラスに手を伸ばし、ぐいっと飲む。いつもはルココちゃんがいるのでお酒が出るようなお店に行かないが、今日はディナーでワインがよく合う料理が多い。お酒に弱いわけではないが、両親が借金を抱えてからお酒を買う余裕もなかったので実は久しぶりのお酒だ。チェーサーを挟みつつ飲んではいたが、食事が終わる頃には結構お酒が回っていたようだ。

「そろそろ帰るか」

 頼人さんが立ち上がるのを見て、立ち上がり、一歩足を進めるとふらっと体が揺れた。あれ、これやばいぞ……と思っていると、足がもつれ尻餅をついた。認めようとしてくれているところでこんな失態。できるだけ冷静を装い、自分の力で立とうとした。だが、うまく力が入らない。
 頼人さんが側に来て手を借してくれた。頼人さんの手が私の二の腕に触れ、ぎゅっと力を入れられる。ぐいっと持ち上げられゆっくりと体を引き寄せられると耳元で頼人さんの低い声が響く。

「お前、女か?」

 身体中の血の気が一気に引いた。
 終わった……。
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