男装して婚約者を演じていたらお兄様に目をつけられてしまいました
 白井世奈が、女と知って僕の嗅覚はピンと来た。彼女の周りはなんだか面白そうな香りがする。女性らしさを消すかのような服装に、仕草。料理に隙のないあの白髪の男といい、浮世離れした可愛いルココちゃん。鼻につくイケメンなだけの大男。あのグループには何かある。
 この一週間、僕は彼らを調べた。というか、芹沢頼人ですぐに分かった。あの男は、あの頼人だったのか。幼少期に僕をコケにしたあの頼人。それが今、僕の生徒として僕にお金を払って教えを請うとは面白い。しかも、調べれば調べるほど、面白いことが判明した。芹沢家は今、ルココちゃんの結婚相手を探している。その原因は、親密すぎる兄妹愛とかなんとか噂もされている。元々は、頼人の結婚相手を探していたが、どんなに美人や可愛い子、教養のある子でも、頼人は相手にせず、何があっても妹を優先する強烈なシスコン度合いを発揮していたらしい。
 ただここで疑問が生じた。世奈ちゃんはなんだ?
 白髪の男は所作から使用人だと推測できる。だが、世奈ちゃんはあまりに素朴。使用人にしてはルココちゃんや頼人を気遣う素振りが乏しい。単なるルココちゃんの友達か? はたまた……。

 第二回目、僕は直感を信じつつ、世奈ちゃんに近づいてみることにした。全体を見ながら説明し、ポイントとなるところで世奈ちゃんの目を見て微笑み一瞬の間を作る。周りには気づかれないだろうが、目があっている本人たちだけわかるアイコンタクト。何度も何度も目が合えば、勘違いではなく確信に変わる。四人で参加しているのにたった一人でこなす調理。相手にされない寂しさ、そして、この中で唯一その寂しさを察してくれて、優しく視線を交わしてくれる相手。生まれるべくして生まれる淡い恋心。
 ああ、これからが楽しみだ。世奈ちゃんは、僕にどんな喜びを味わわせてくれるのかな。
 世奈ちゃんが、僕を意識し始めた瞬間、僕はあえて彼女のグループを避けて周った。困っている生徒に手取り足取り教え、最後に優しく微笑む。
 ああ、僕は分かってしまうんだ。女性の気持ちが。
 世奈ちゃんは、僕の行動や視線が気になって仕方がないはず。自然と目で僕を追ってしまう。料理に集中できなくて、なかなか作業が進まなくなってヤキモキしてくる。あんなに目があっていたのに、なぜ私のところに来てくれないの? 他の女性ばかりに話しかけて微笑んで、さっきのはなんだったの? 時間が長くなれば長くなるほど気持ちは膨らんんでいく。でも焦らしすぎてもダメだ。破裂しそうになったところで甘い笑顔を向ける。そうすると、ほ、ら、……ん? あれ? 
< 30 / 53 >

この作品をシェア

pagetop