男装して婚約者を演じていたらお兄様に目をつけられてしまいました
「俺らじゃなくて急に出てきたあんたのせいだろう」
「そうですか? 僕の目には、二人がいらした時に世奈ちゃんは驚かれていたようですが」
「生徒をチャン付けで呼ぶキモい講師のせいじゃないか?」
「僕からしたら世奈ちゃんがストーカーされて困っているように見えますが」
「お前、バカなのか?」

 新道先生が私の方を見ると、頼人さんは、眉間に皺を寄せて新道先生の後頭部を見つめた。

「世奈ちゃん、もし何か弱みを握られたりしているのであれば」

 新道先生がそう言いながら、しゃがんで私の手を掴もうとした時だった。頼人さんの手が、新道先生の手首を掴み、後ろに引っ張る。

「痛い、痛いですよ。警察呼びますよ」
「気安く触るな」

 新道先生の手を離した頼人さんは、睨みつけたまま、手を組んで見下ろしている。
 頼人さんは、なぜそんなに怒っているのだろうか。新道先生は、ルココちゃんに触れようとしたわけではないのに。

「君たちは付き合っているんですか?」

 新道先生は立ち上がりながら、私に尋ねるので「いいえ」と答えると、「そうですか」と微笑んだ。

「今度、僕の父がパーティーをするので、よろしければ皆さんでいらっしゃいませんか? パーティーの食事は全て僕が担当していて、毎年生徒さんを連れて行っているんです」

 私は、ルココちゃんの方を向いた。
 新道先生の教室を選んだのはルココちゃんだし、料理に興味を持って頑張っているのはルココちゃんだ。それに私は、ついてきているだけ。
 
「どうしますか?」

 ルココちゃんは、頼人さんたちの方に顔を向けて様子を伺っているようだ。
 頼人さんは、首を横に振り、絶対に行かせたくないという意思が伝わってくる。
 そういえば、ルココちゃんはパーティーが苦手だ。可愛いが故に、男性が沢山寄ってきてつまらない自慢話を聞くハメになるんだ。それを知りながらルココちゃんに尋ねるとは、私はなんてバカなんだ。

「ああ、そういえば、私、これから忙しくなるので」
「んふふ。一日くらいなんとかなりますわよ」

 あれ? ルココちゃん、嫌じゃなかったのか?

「ルココ……」

 頼人さんも困っている。丸留さんは、いつものように爽やかな微笑みを浮かべて行く末を眺めているようだ。

「きっとパーティーでしか味わえないようなメニューもございますでしょう?」
「もちろんです」

 新道先生は、微笑みながら返した。
< 34 / 48 >

この作品をシェア

pagetop