男装して婚約者を演じていたらお兄様に目をつけられてしまいました
 だから変な噂だけが回ってしまったのかもしれない。

「実は……」

 ルココは、知っている範囲で話した。酷なことだと分かりつつも、俺が出張る番ではないと感じた。そもそもルココは、何があったのかはほとんど見ていない。ルココが見たのは、ソファーの上で身を縮めた白井と床に倒れ込んで妄想を叫ぶ新道の姿。実際に何が起きていたのかは、何も見ていないし、知らないから俺が話すよりはいいだろうと思った。

「怖かったわよね。ルココはもう大丈夫なの?」

 ルココの話を聞いた母は、ルココを心配そうになだめている。

「頼人を放って別の男と二人きりになるような女性はルココにも悪影響だ」

 父は、想像した通りの反応を示した。黙っておけばいいものを俺の口は勝手に動き始めた。

「それは違います。彼女は、体調が悪そうな新道を放っておけなかっただけです。そもそも俺が彼女を放置してしまったのが悪かったんです」
「二人きりになる理由なんて後からなんとでも嘘つけるだろう」
「嘘をついて彼女を騙したのは新道です。白井さんはとても純粋で、まっすぐで、困った人を放っておけない、親切な子なんです」

 父は眉間に皺を寄せ、目を細めた。

「頼人は彼女に騙されていないという自信はあるのか?」
「はい」
「その女性のせいで頼人の評判が酷いことになっているようだが、どうするんだ?」
「関係ありません。俺は俺です」
「分かってないな。その年で結婚もせず、女性を見る目もなく、後継者も期待ができないとなれば、次を頼人に任せていいのかという不安が出てくるのも仕方がない」

 結婚なんて必要な時にすればいい。子供だって焦ることはない。今はまだ仕事に集中したいだけだ。そう。俺はこれまで、何よりルココや仕事を優先してきた。けれど、今の俺はどうなんだ? ルココのためにと言いながら、白井と会う時間を必死に作り、ルココのためにと言いながら、白井と過ごす時間を楽しんでいる。新道に覆い被さられた彼女を見た時の俺は、ルココのことなんて少しも過らず、ただただ怒りに身を任せていた。
 ルココには幸せになって欲しい。ルココと彼女の中を引き裂くつもりも邪魔するつもりもない。でも、こうなったら俺は、どこぞの令嬢とちゃんと身を固めた方がいいのかもしれない。

「世奈様は、お兄様の結婚相手に相応しい方ですよ」
「は?」

 俺は、動揺して声を荒げてしまった。

「当の本人は、ふさわしくないと思っているようだが」
「いやですわ、お父様。これはお兄様の照れ隠しですわよ」
「そうなのか? しかし、悪評を聞く限りだと相応しいとは思えんが」
「一度お会いされたら分かっていただけると思いますわ」

 ルココのことは、俺が一番分かっていると思っていたが、何を考えているのか全くわからなくなった。
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