男装して婚約者を演じていたらお兄様に目をつけられてしまいました
 でも、それをしたところで、ルココちゃんのお見合いや結婚を阻止するということにはならないのではないか。なぜ私は、嘘をついてまで頼人さんの彼女として、彼らのご両親に挨拶をしに行かなければならないのだろうか。
 ルココちゃんは、「すべてわたくしにお任せください」と笑って帰って行った。雇われている身としては、与えられた職務を全うするしかない。今日の私は、頼人さんの彼女、彼女、かの、女……。できるだろうか。いや、弱音を吐いたらダメだ。だって、私は

「ルココちゃんのためなら、なんでもします」
「そうか」

 頼人さんは困り顔で微笑んでいる。
 まあ、頼人さんも恋人ではない人と恋人役をしなければならないのだから困っているに違いない。

 日が昇り、芹沢家にお邪魔するためにスーツを来て、身なりを整える。今日のために服を新調する話も出たが、色々考えた結果、ルココちゃんが私のために選んでくれた服の中から私が気に入っている服を着ることにした。

 芹沢家は想像の五倍、いや、十倍すごい家だった。家、なのか? もう凡人の私には分からない。
 客間は、実家の総面積たしても足りないのではないかと思うほどに広く、高そうな絵画や家具が美術館のように並べられていた。
 ガチャっと扉が開くと、芹沢父、芹沢母、ルココちゃんの順で入ってきた。芹沢母もルココちゃんのようなドレスを着ているのかと思ったが、おしゃれなおとなしめの女性用スーツだった。
 挨拶を軽く済ませると芹沢父は早速本題へと切り込んできた。

「頼人の結婚には、多くの人の人生を左右するだけの影響力がある。だからこそ相手は慎重に選ばなければならない。異性関係にゆるい方は言語道断です」
「父さん」
「今は白井さんと話しているんだ。頼人は黙っていなさい」

 私が発言する番らしい。でもまあ、異性関係にゆるいなんていうのは私に縁遠い話だ。

「ご心配には及びません。誰ともお付き合いしたことないので」
「どういうことだ? 頼人と付き合っているんじゃないのか?」

 あっ、そうだった。適当に取り繕わなければ。

「私も自分の立場を理解しています。好意を抱いていただいて、同じ想いだとしても、そう簡単にお付き合いさせていただける相手だとは思っておりません。ですので、そのような言い方になってしまいましたが、可能であればそうな関係になりたいとは思っています」

 芹沢父は肩の力を落とすようにソファーの背もたれに体を委ねた。

「恋人でない相手とふしだらなこともするということか」
「ふ、し、だら?」

 言っている意味がすぐには理解できず、言葉に詰まると、頼人さんとルココちゃんが、助け舟を出してくれた。
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