男装して婚約者を演じていたらお兄様に目をつけられてしまいました
 芹沢家をおいとまし、部屋に戻って一息つく。

「それにしても、お兄様が毎晩こちらに足繁く通われていたなんて、ねぇ。丸留」
「だから何度も言うように何もなかったし、これからも何もない」

 丸留さんが入れてくれた紅茶を飲みながら、ルココちゃんは丸留さんを味方に私たちに詰め寄る。丸留さんは、ルココちゃんの隣でニコニコしている。
 悪い人だ。

「わたくしは除け者だったなんて少し寂しくてよ、ねぇ。丸留」
「言うタイミングを逃したというか、変に誤解されるのもアレだから言いづらかったというか」
「これでお兄様が、わたくしに黙って世奈様に近づくのは二度目ですわ」
「だから、これはだな」

 ルココちゃんの表情はどこか楽しそうだ。
 頼人さんは、珍しく私に助けを求めるような視線を送ってきた。愛する妹には、敵わないということだろう。

「ルココちゃん。本当に何もないので安心してください」
「むしろ、わたくしは何もないことに不安を抱いておりますのよ」

 ん? 何を言ってるんだ。

「お兄様、わたくしと世奈様ではお子は生まれませんわ」

 そりゃそうだろう。ってか、子って?

「わたくしは、お兄様と世奈様なら大歓迎ですの」
「「……はぁ?」」

 私と頼人さんは、目を合わせてハモるように疑問の音を発した。

「お兄様と世奈様のお子であれば、わたくしと世奈様の子も同然ではございませんか。お兄様、わたくしの夢を叶えていただけませんこと?」
「待て、待て待て待て。ルココちゃん。さっきから何を言っているの?」

 ルココちゃんは、口をすぼませ、首を傾げる。

「あら、世奈様とお兄様はお似合いだと思っておりますのよ。もちろん一番は、わたくし、であって欲しいものですが、これも一つの家族の在り方、愛の在り方ではございませんこと?」
「家族も、愛も、ちょっと待って。理解が……」
「そ、そうだぞ。ルココ。話が飛躍しすぎて流石に俺も混乱している」

 ルココちゃんは笑顔で「んふふ、冗談ですわ。お父様にも婚前妊娠は強く止められておりますしね。ふふ」と笑って帰っていった。
 なんだ。なんなんだ、ルココちゃん。
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