男装して婚約者を演じていたらお兄様に目をつけられてしまいました
 年も近そうな男の子。バイトに明け暮れていた時は、時給重視で、おじさんや爽やかさとはかけ離れた方々としか関わることがなかった。頼人さんは整った顔だし、いかにもな雰囲気だが、年も少し離れていて身近さはなかった。丸留さんに至っては、年齢不詳だし、人間なのかすら疑わしい完璧執事さんすぎて、身近さなんて論外だったが、藻風君は、久しぶりに現実の男の子って感じがする。

「白井世奈です」

 ゆっくり手を差し出す。
 
「あ〜藻風くん。今日も早くきてくれたんだ。助かるよ。まあさちゃん飛んじゃってさぁ」
「なんとなくそんな気したんすよね。時給はつけてくださいね」
「もちろんだよ」

 一瞬触れたと思った握手は、店長が来たことですぐに終わった。藻風君は、店長と話をしながらスタッフルームに向かう。

「ヤッバ! 藻風君、今日もかっこいい。この後会議で続きで来れないと思ってたから会えてラッキー」
「良かったねぇ」

 お金をかけていそうな艶めく髪におしゃれなネイル。年齢もさほど変わらなさそうだ。藻風君を見ただけで会えたと思えるくらいにお気に入りのようだ。ここでの出会いというのは、あながち間違いではなさそうだ。
 藻風君は、爽やかなだけでなく、仕事もできて、気がきくタイプの人だった。溢れかえったゴミの後始末の手伝い、ラッシュアワーに切れた在庫の補充や在庫チェック、追加発注のメモをしながら、今日早く来た理由について教えてくれた。

「で、急に彼女さんが来ちゃって、邪魔者になったんで来てみたんす。人足りてりゃ控室で勉強すればいいし、足りてなかったらお金稼げるしって思ってたんすけど、やっぱ来て良かったっす」
「はぁ、なんだか大変だったんですね。でも来てくださって助かりました」
「あはは。良かった。店長、一人でも回せちゃう狂人だし、あっさりしてるから普通の人の気持ち分かんなくてフォローしないから、大抵すぐ見切りつけて辞められちゃうんすよね」
「でも、藻風君はベテランって」
「えへへ。Serizawa World Groupの本社で働くなんて、三流大学じゃ運以外で勝ち取ることはできないし、こういうコネって大事なんじゃないかなって必死にしがみついたっす。おかげ内定ゲットっす」
「え? すごい」

 屈託のない笑顔を浮かべる藻風君。
 一つの目的のために、どんな苦行もこの笑顔で乗り越えてきたのかと思うと尊敬する。

「白井くん。今落ち着いてるし、チャチャっと休憩行ってきて」
「はい」

 店長に休憩を打診され、スタッフルームに行き、用意してきたお弁当を食べて、栄養を補充する。お昼休憩を終えて戻ってくると、早速次の仕事が待っていた。
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