〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
 3月29日土曜日。今夜は春の嵐だった。
大粒の雨粒が窓に打ち付け、時折雷が轟いている。

 時計の針が23時に近くなった頃。二階の自室にいた伶は、父と継母の言い争う声を聞いた。
雷を怖がる舞はひとりで寝ることができず、伶の部屋の彼のベッドで寝息を立てている。伶はまだ眠る気にはなれず、ゲームをして時間を消耗していた。

舞が完全に寝入ってることを確認した伶は部屋を出た。継母の京香の金切り声は階段の上まで響いていて、下に降りなくても争いの声は聞き取れた。

「どうするのよ! バレたら私の人生丸潰れじゃない!」
『仕方ないだろ! ああするしか……』
「だからお金渡して黙らせればよかったのよ。なんのためにがっつり溜め込んでるのよ? もう離婚よ!」

 京香が一方的に父を罵倒している。父も怒鳴ってはいるが、どこか意気消沈した様子の声だった。
二人が言い争うのは珍しいことではない。父と継母の夜中の喧嘩を何度も伶は目撃している。

『大丈夫だ。夏木さんに相談したら、後で人を寄越《よこ》してくれるって言ってた。そいつにすべてを任せる』

 その後は二人で小声で何か話をしていて、階段の上にいる伶には話の内容は聞こえなかった。
ややあって玄関の扉が開く音がして、誰かが家に入って来る。

あと一時間で日付が変わる。こんな時間に人の家を訪ねるとは、非常識な行為だ。
耳を澄ませると、雷の轟きと今度は父親の声が聞こえた。

『ま、待ってくれ……夏木さんは……』

 そこで父の声は途切れた。不思議と京香の声もしない。また外で雷が鳴っていた。

伶は音を立てないようにそっと階段を降りる。螺旋階段を降りて廊下に立つと、明かりのついたリビングに揺らめく影が見えた。

『……あの……』

 リビングには男がいた。黒い服を着た背の高い男は、振り向き様に黒い革手袋を嵌めた手に持つものを伶へ向ける。

伶は男が持つそれが何か知っていた。ドラマやアニメでは見たことがあるそれの、実物を見たのは初めてだった。

『ここのガキか』

 低い声色で男が呟く。伶は頷いて、男の身体の向こうに広がる光景を凝視した。
リビングの白いカーペットが今は赤色に染まっている。赤色に染まるカーペットに、二人の人間が倒れていた。

倒れているのは恰幅のいい男と細長い脚の女。
部屋には異臭が充満している。血と火薬が混ざった臭いみたいだ。

『……殺したんですか?』

 伶は冷静だった。冷静に今の状況を観察した結果、あれは父と京香の死体だと認識した。

『お前……変なガキだな。驚かねぇの?』
『……驚いていますけど……』

 驚いてはいる。しかし泣き叫んだり悲鳴をあげることはしない。
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