〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
佳苗の携帯の着信音は止んでいる。佳苗の様子を察した美夜は、無意識に通話終了ボタンを押していた。
「……佳苗……?」
近付いてもう一度名前を呼んでみる。とても生きているようには見えない佳苗の、雨に濡れた右手の人差し指がかすかに動いた。
佳苗の指が動いた瞬間に美夜はビクッと肩を震わせる。
佳苗はまだ、生きていた。
今すぐ救急車を呼べば助かるかもしれない……頭では理解していた。だけど美夜は、どうしても手元の携帯電話で119番の番号を押す気にはなれなかった。
ここで佳苗が死ねば解放される。やっと、この悪魔から解放される。美夜の心に棲みついた悪魔が優しい声でそう囁いた。
ガタン……ガタン……また列車が線路を通過する。美夜はしばらく佳苗の様子を観察していた。
あの傷にそしてこの雨。佳苗の体温は急激に下がっているだろう。
もう彼女の唇も指も動くことはない。恐る恐る名前を呼び掛けても、今度は反応がなかった。
人が死ぬ瞬間のなんと呆気《あっけ》ないこと。
佳苗が死んだ。死ぬ瞬間を美夜は見届けた。
携帯電話のボタンを押す手の震えが止まらない。
1……1……0、押した直後に繋がった相手に向けて、美夜はか細い声で伝えた。
「友達が……死んでいます」
それだけを言うのが精一杯だった。場所は川口蕨陸橋の自転車置き場と伝えて電話を終えた美夜の頬には、涙が流れている。
この涙は悲しいの? 嬉しいの? どちらの涙なの?
流れた涙を袖で拭い、美夜はふと陸橋の上を見た。どうして陸橋を気にしたのかはわからない。でも誰かに見られている気配を感じた。
陸橋の階段のちょうど真ん中辺りに、黒い傘を差した黒いスーツの男が見える。
美夜の位置からはその人の顔はよく見えない。
若いのか中年なのかもわからない。彼がそこで立ち止まっている理由もわからない。
ほんの一瞬、美夜はその男と目が合った気がした。
遠くでパトカーのサイレンの音がする。警察が到着する前に男は階段を上がり、陸橋の上に消えた。
佳苗は誰かに殺された。美夜は誰かわからない、佳苗を殺害した共犯者に心の底から感謝した。
──佳苗を殺してくれて……ありがとう──
「……佳苗……?」
近付いてもう一度名前を呼んでみる。とても生きているようには見えない佳苗の、雨に濡れた右手の人差し指がかすかに動いた。
佳苗の指が動いた瞬間に美夜はビクッと肩を震わせる。
佳苗はまだ、生きていた。
今すぐ救急車を呼べば助かるかもしれない……頭では理解していた。だけど美夜は、どうしても手元の携帯電話で119番の番号を押す気にはなれなかった。
ここで佳苗が死ねば解放される。やっと、この悪魔から解放される。美夜の心に棲みついた悪魔が優しい声でそう囁いた。
ガタン……ガタン……また列車が線路を通過する。美夜はしばらく佳苗の様子を観察していた。
あの傷にそしてこの雨。佳苗の体温は急激に下がっているだろう。
もう彼女の唇も指も動くことはない。恐る恐る名前を呼び掛けても、今度は反応がなかった。
人が死ぬ瞬間のなんと呆気《あっけ》ないこと。
佳苗が死んだ。死ぬ瞬間を美夜は見届けた。
携帯電話のボタンを押す手の震えが止まらない。
1……1……0、押した直後に繋がった相手に向けて、美夜はか細い声で伝えた。
「友達が……死んでいます」
それだけを言うのが精一杯だった。場所は川口蕨陸橋の自転車置き場と伝えて電話を終えた美夜の頬には、涙が流れている。
この涙は悲しいの? 嬉しいの? どちらの涙なの?
流れた涙を袖で拭い、美夜はふと陸橋の上を見た。どうして陸橋を気にしたのかはわからない。でも誰かに見られている気配を感じた。
陸橋の階段のちょうど真ん中辺りに、黒い傘を差した黒いスーツの男が見える。
美夜の位置からはその人の顔はよく見えない。
若いのか中年なのかもわからない。彼がそこで立ち止まっている理由もわからない。
ほんの一瞬、美夜はその男と目が合った気がした。
遠くでパトカーのサイレンの音がする。警察が到着する前に男は階段を上がり、陸橋の上に消えた。
佳苗は誰かに殺された。美夜は誰かわからない、佳苗を殺害した共犯者に心の底から感謝した。
──佳苗を殺してくれて……ありがとう──