〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
16時15分を過ぎた時、テーブルに置いた美夜の携帯電話のバイブ音が鳴り響いた。佳苗からの電話だった。
もしかしたら遅くなる、今日は会えない、大方そんな連絡だと思った。美夜は通話ボタンを押して声を潜めて電話に出た。
「もしもし佳苗?」
{……み……や……た……すけ……て……}
話し声でざわつくファミレスでは、電話から漏れる佳苗の小さな声が聞き取りにくい。それでも、“たすけて”の言葉は聞き取れた。
「え? なに? あんた今どこにいるの?」
{……わら……び……りっ……きょう}
“わらびりっきょう”と聞こえた気がした。佳苗の声はそれっきり聞こえなくなり、かすかに電車が走る音が聞こえる。
「……なんなの、あの子」
美夜は通話を切り、会計を済ませてファミレスを出た。外に出ると春の嵐は容赦なく美夜に襲いかかってくる。
赤い傘を差して佳苗が言っていた場所に向かう。“わらびりっきょう”とは、蕨駅の近くにある川口蕨陸橋のことだ。
細い道から線路沿いに出た。線路沿いの一角は自転車置き場になっていて、雨に打たれた自転車が主人の帰りを待っている。
雨のカーテンの隙間から美夜は佳苗の姿を探した。佳苗らしき人物は見当たらない。
再び佳苗の携帯電話に通話を繋げる。美夜の携帯にコール音が流れると同時に、どこかでメロディが聞こえた。このメロディは佳苗が着信音にしている音だ。
美夜はメロディが聞こえる方向に進んだ。
ガタンガタン……金網を挟んだ目の前の線路を長い列車が通過していく。線路脇に並ぶ自転車がそこだけドミノ倒しに倒れていた。
倒れた自転車の群れの中に、肉付きのいい二本の脚が投げ出されている。携帯電話の着信音は投げ出された脚のすぐ側で鳴っていた。
降り続く雨が赤い液体と共に道路に流れていく。赤い傘を差す美夜は棒立ちになって、その光景を見下ろしていた。
「佳苗……?」
ドミノ倒しになった自転車の群れに紛れて、佐倉佳苗が倒れている。彼女が履いているレオパード柄のミニスカートはめくれあがり、日に焼けた太ももに雨粒が当たる。
ピンク色のトレーナーを着ている佳苗の腹部には赤い血が滲んでいた。
もしかしたら遅くなる、今日は会えない、大方そんな連絡だと思った。美夜は通話ボタンを押して声を潜めて電話に出た。
「もしもし佳苗?」
{……み……や……た……すけ……て……}
話し声でざわつくファミレスでは、電話から漏れる佳苗の小さな声が聞き取りにくい。それでも、“たすけて”の言葉は聞き取れた。
「え? なに? あんた今どこにいるの?」
{……わら……び……りっ……きょう}
“わらびりっきょう”と聞こえた気がした。佳苗の声はそれっきり聞こえなくなり、かすかに電車が走る音が聞こえる。
「……なんなの、あの子」
美夜は通話を切り、会計を済ませてファミレスを出た。外に出ると春の嵐は容赦なく美夜に襲いかかってくる。
赤い傘を差して佳苗が言っていた場所に向かう。“わらびりっきょう”とは、蕨駅の近くにある川口蕨陸橋のことだ。
細い道から線路沿いに出た。線路沿いの一角は自転車置き場になっていて、雨に打たれた自転車が主人の帰りを待っている。
雨のカーテンの隙間から美夜は佳苗の姿を探した。佳苗らしき人物は見当たらない。
再び佳苗の携帯電話に通話を繋げる。美夜の携帯にコール音が流れると同時に、どこかでメロディが聞こえた。このメロディは佳苗が着信音にしている音だ。
美夜はメロディが聞こえる方向に進んだ。
ガタンガタン……金網を挟んだ目の前の線路を長い列車が通過していく。線路脇に並ぶ自転車がそこだけドミノ倒しに倒れていた。
倒れた自転車の群れの中に、肉付きのいい二本の脚が投げ出されている。携帯電話の着信音は投げ出された脚のすぐ側で鳴っていた。
降り続く雨が赤い液体と共に道路に流れていく。赤い傘を差す美夜は棒立ちになって、その光景を見下ろしていた。
「佳苗……?」
ドミノ倒しになった自転車の群れに紛れて、佐倉佳苗が倒れている。彼女が履いているレオパード柄のミニスカートはめくれあがり、日に焼けた太ももに雨粒が当たる。
ピンク色のトレーナーを着ている佳苗の腹部には赤い血が滲んでいた。