〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
『僕が話せることはこれくらいです』
「ありがとうございました。あの、北側の校舎の近くに公園がありますよね」
これで話が終わると思いきや、急に話題を変えた美夜に陣内は怪訝な表情で応じた。
『ああ……ありますね。あの公園は下校する生徒達の溜まり場になっていますよ』
「北の校舎にはどんな教室が?」
『僕が受け持つ生物室や化学室などの理科系教室と、美術室と音楽室もあります。それが何か?』
「いえ、どこの学校も似た作りだなと思ったもので。お忙しいところを失礼いたしました」
昼休みの騒がしい校舎を抜けて美夜達は荒川第一高校を退散する。日暮里のコインパーキングに向かう二人の脳裏に前田絵茉の本当の姿が浮かんだ。
「絵茉って高校までの自分をリセットして大学デビューしたタイプかな。だから中学や高校の交遊関係がいなかったのね」
『高校時代に地味だった人間が大学ではじけるのはありがちだ。それでカップルクラッシャーになるのはやり過ぎだけどな』
陣内の話によって絵茉の印象は大きく変わった。高校時代の絵茉は、派手なグループの側に控えめに存在する普通の生徒だった。
『北側の校舎の話は意味あるのか?』
「北校舎なら日暮里南公園が見えるでしょ」
『さっきの視線ってやつ気にしてる? 授業中の生徒や教師がよそ見して外見てたんじゃねぇの?』
もちろんその可能性が高い。北校舎には陣内の担当科目の生物室もあると言っていた。生物室は何階だろう?
「九条くんの身長いくつ?」
『180センチ』
「とすると、陣内の身長は175センチ前後ね」
会議室を出る時に九条と陣内が肩を並べた瞬間があった。180センチの九条と陣内が並んだ時の二人の身長差は、目測で5センチ程度。
『陣内のあの細い腕で人絞め殺せるとは思えないぞ』
「細くても男は男。それに被害者の後頭部を殴って気絶させてから絞め殺してる。陳内の身長や体型もカメラに映っていた男と似ているよ」
尾竹橋通りを横切って日暮里のコインパーキングに着いた。
今日は花冷えの曇り空。一瞬覗いた太陽はまた雲のカーテンに隠れてしまった。
『やっぱり絵茉の周囲の人間関係だけに絞るのは危険だろ。絵茉と明日美と千尋、無差別だとしてもこの三人は全員デリヘルをしていた。事件の突破口はそこにあると思う』
「三人の共通点はそこなのよね……」
日暮里南公園で受けた気持ちの悪い視線の感覚はまだ美夜にまとわりついている。
この気持ちの悪さは何?
見えそうで見えない花曇りの先に何かあるはずだ。
見落としている何かが。
Act2.END
→Act3.催花雨 に続く
「ありがとうございました。あの、北側の校舎の近くに公園がありますよね」
これで話が終わると思いきや、急に話題を変えた美夜に陣内は怪訝な表情で応じた。
『ああ……ありますね。あの公園は下校する生徒達の溜まり場になっていますよ』
「北の校舎にはどんな教室が?」
『僕が受け持つ生物室や化学室などの理科系教室と、美術室と音楽室もあります。それが何か?』
「いえ、どこの学校も似た作りだなと思ったもので。お忙しいところを失礼いたしました」
昼休みの騒がしい校舎を抜けて美夜達は荒川第一高校を退散する。日暮里のコインパーキングに向かう二人の脳裏に前田絵茉の本当の姿が浮かんだ。
「絵茉って高校までの自分をリセットして大学デビューしたタイプかな。だから中学や高校の交遊関係がいなかったのね」
『高校時代に地味だった人間が大学ではじけるのはありがちだ。それでカップルクラッシャーになるのはやり過ぎだけどな』
陣内の話によって絵茉の印象は大きく変わった。高校時代の絵茉は、派手なグループの側に控えめに存在する普通の生徒だった。
『北側の校舎の話は意味あるのか?』
「北校舎なら日暮里南公園が見えるでしょ」
『さっきの視線ってやつ気にしてる? 授業中の生徒や教師がよそ見して外見てたんじゃねぇの?』
もちろんその可能性が高い。北校舎には陣内の担当科目の生物室もあると言っていた。生物室は何階だろう?
「九条くんの身長いくつ?」
『180センチ』
「とすると、陣内の身長は175センチ前後ね」
会議室を出る時に九条と陣内が肩を並べた瞬間があった。180センチの九条と陣内が並んだ時の二人の身長差は、目測で5センチ程度。
『陣内のあの細い腕で人絞め殺せるとは思えないぞ』
「細くても男は男。それに被害者の後頭部を殴って気絶させてから絞め殺してる。陳内の身長や体型もカメラに映っていた男と似ているよ」
尾竹橋通りを横切って日暮里のコインパーキングに着いた。
今日は花冷えの曇り空。一瞬覗いた太陽はまた雲のカーテンに隠れてしまった。
『やっぱり絵茉の周囲の人間関係だけに絞るのは危険だろ。絵茉と明日美と千尋、無差別だとしてもこの三人は全員デリヘルをしていた。事件の突破口はそこにあると思う』
「三人の共通点はそこなのよね……」
日暮里南公園で受けた気持ちの悪い視線の感覚はまだ美夜にまとわりついている。
この気持ちの悪さは何?
見えそうで見えない花曇りの先に何かあるはずだ。
見落としている何かが。
Act2.END
→Act3.催花雨 に続く