〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
講義室を飛び交う白い目は妹の萌子と同じ目だ。扉の前で立ち尽くす紺野はどこにも行けないでいた。
半数以上の席が埋まっている。普段なら友人達と同じ席に座ればいいが、あからさまにこちらを避ける彼らの態度には紺野も幻滅する。
紺野がマッチングアプリで出会った人妻の話にあれほど盛り上がっていた連中も、結局は面倒事に巻き込まれたくないのだろう。
残っている空席は少ない。
三人掛けの席は両端に二人が座り、中央が空いている席が二列分、カップルの隣、最前列と後ろから二列目は余った椅子に荷物を置いて三人席をひとりで使用している。
三人席をひとりで使用している二人のうち、ひとりは夏木伶だ。誰もが紺野を避ける中、伶だけはこの空気に無関心だった。
『……ここ、いい?』
『どうぞ』
伶はスマートフォンから顔を上げずに答えた。皆の視線が伶に集まっても、伶はそんなことはどうでもいいと言いたげな涼しい顔をしている。
初対面からこの男が気に入らなかった。自分以外の雑事には興味がなく、時には教師さえも見下すような冷めた眼差しを宿す伶が苦手だった。
しかし今は伶の無関心さに救われる思いだ。
中央の椅子をひとつ開けた伶の隣で90分間の講義をやり過ごす。この居心地の悪さが今後も続くと思うと地獄だ。
講義終了後に紺野を置いてそそくさと講義室を去る友人達を、彼は遠巻きに眺めていた。噂の流出で友人はどれくらい減っただろう。
マッチングアプリで異性と遊ぶ大学生は珍しくない。遊びたい盛りの男も女も腐るほどいる。
不倫だってそうだ。バイト先の店長と不倫中の女も、紺野と同じようにマッチングで人妻と遊んでいる男もいる。
皆やっているくせに。お前もやっているくせに。
どうして自分だけが後ろ指を指され、父親には責められ、妹に軽蔑されなければならない?
半数以上の席が埋まっている。普段なら友人達と同じ席に座ればいいが、あからさまにこちらを避ける彼らの態度には紺野も幻滅する。
紺野がマッチングアプリで出会った人妻の話にあれほど盛り上がっていた連中も、結局は面倒事に巻き込まれたくないのだろう。
残っている空席は少ない。
三人掛けの席は両端に二人が座り、中央が空いている席が二列分、カップルの隣、最前列と後ろから二列目は余った椅子に荷物を置いて三人席をひとりで使用している。
三人席をひとりで使用している二人のうち、ひとりは夏木伶だ。誰もが紺野を避ける中、伶だけはこの空気に無関心だった。
『……ここ、いい?』
『どうぞ』
伶はスマートフォンから顔を上げずに答えた。皆の視線が伶に集まっても、伶はそんなことはどうでもいいと言いたげな涼しい顔をしている。
初対面からこの男が気に入らなかった。自分以外の雑事には興味がなく、時には教師さえも見下すような冷めた眼差しを宿す伶が苦手だった。
しかし今は伶の無関心さに救われる思いだ。
中央の椅子をひとつ開けた伶の隣で90分間の講義をやり過ごす。この居心地の悪さが今後も続くと思うと地獄だ。
講義終了後に紺野を置いてそそくさと講義室を去る友人達を、彼は遠巻きに眺めていた。噂の流出で友人はどれくらい減っただろう。
マッチングアプリで異性と遊ぶ大学生は珍しくない。遊びたい盛りの男も女も腐るほどいる。
不倫だってそうだ。バイト先の店長と不倫中の女も、紺野と同じようにマッチングで人妻と遊んでいる男もいる。
皆やっているくせに。お前もやっているくせに。
どうして自分だけが後ろ指を指され、父親には責められ、妹に軽蔑されなければならない?