龍神島の花嫁綺譚
 つい何日か前も、絢子が取り巻きを引き連れて西の邸宅にやってきた。

 絢子は五十年前に島に送られてきた花嫁らしい。艶やかな黒髪の、十代のままのような若さと瑞々しさのある美しい女性だった。

「紅牙様がいつもお世話になっているので」

 紅牙の髪色とよく似た深紅の着物に身を包んだ彼女は、菓子箱を陽葉に手渡して、慎ましやかに微笑んだ。

 美しい人が持ってきてくれた手土産を、陽葉は何の疑いも持たずに喜んで受け取った。

「黄怜さん、南の邸宅の絢子さんがお菓子をくださいました。一緒にいただきましょう」

 けれど、にこにこ顔の陽葉を、黄怜は馬鹿にするように鼻で笑った。

「僕はいいよ」
「なんともったいない。それなら私が全部いただいちゃいますからね」

 そう言いながら菓子箱を開けて唖然とした。中に詰められていたのは、ぐちゃぐちゃの泥団子だったのだ。

「だから言ったでしょ」

 背中に黄怜の嘲笑を受けて、陽葉はとてもがっかりした。

 どうやら陽葉は、歴代の元花嫁たちから嫌われているらしい。

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