龍神島の花嫁綺譚
 だが、閉じ込められた北の祠で、黎斗は密かに力を蓄えていた。封印をとき、島や人里を荒海の中に沈めるために復讐のときを静かに待っていた。

 そして数百年前、ついに北の祠の封印が解かれて嵐が巻き起こった。

 すぐに白玖斗が海を鎮めようとしたが、何百年と蓄え続けた黎斗の力はかつてよりも強くなっていた。

 蒼樹たち五頭龍や天音と力を合わせても黎斗の力を抑えることができない。

 このままでは世界が海に呑まれてしまう。そう思った天音は、自らが犠牲になって黎斗を封じることにした。

 黒の石の中に、自らの心の一部と一緒に黎斗を閉じ込めた。そうしたのは、黎斗がひそかに自分に心を寄せていたことに気付いていたからだ。

 天音は黒の石を、白玖斗、蒼樹、紅牙、黄怜の力を込めた四つの石で守らせて、洞窟の奥へと封じさせた。

『いつかかならず戻ります』

 そんな約束の言葉を残して。

 それが、白玖斗に愛されて消えた天音の記憶。

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