この恋、延長可能ですか?

それに、顔が見えないからずっと気が楽だ。
面と向かって話すと上がってしまうけれど、顔さえ見えなければ案外するすると文字が打てるらしい。


電車の中で何度も打ち直したメール。やっと出来上がったそれを5周程度読み直す。


《初めまして。当方、このようなサービスを利用するのが初めての為、軽く教えて下さると有難く存じます》


うーーーん、ちょっと固いかな?

異性とのメールって身内以外皆無なので、正解がまったく分からない。

けれども中身云々、待たせる方が失礼だ。
意を決して送信した。期待していなかったレスポンスは、案外すぐに届いた。


《じゃあ、軽く説明しますね。基本的に、俺は初めましての人とは何度か連絡を通して会いたい派です。登録情報見させて貰ったけれど男性に苦手意識持っているみたいだし、何よりお互いリラックスしないと楽しめないと思ってる。理解してもらえると嬉しいな》


あら、この人、意外と誠実な人なのかしら。

いやいや、仕事だ。営業用。ホストだってお客を次に繋げようと、まずは懐から忍び込むでしょう。

油断は禁物。彼らは忍びと心得よう。こちらもくノ一の気持ちで対応した方が良い。にんにん。

《かしこまりました。当方会社員の為、連絡は夜が主となりますが宜しいですか?》

《もちろん。義務的とは思わずに、連絡したいと思った時に連絡してね》

《かしこまりました。善処します》

《不安なことがあればすぐに言って。こちらも善処します。そろそろ名前聞きたいな。登録してもらったニックネームで呼んでいいならそれで呼ぶけど、何ちゃん?》


そっか。登録したのは朱希と奈穂だから適当に「しまにするね!」って言ってた。

それに、やっぱり話の運び方が上手だなあ。さすが女性相手に慣れていらっしゃる。
これは異性に限った事ではなく、相手からの返事が早いと無償に安心するのは、人間として致し方ないことだと思う。


《ご挨拶が遅れて申し訳ございません。志麻ひよりと申します》


妙な安心感を覚えたところで、遅れて名乗る。同時に、いつも自分の降りる駅を通り過ぎ、さらに、最寄り駅までをも通過する既のところで気づくのだから、あわててひとり、息を切らす。
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