甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

5-10 聖女と末っ子聖獣


「もうぷんぷんなのー」

 ほっぺたをぷうと膨らませて、ぷいっとそっぽを向いてしまったラピスを見て、怒っているのもかわいくて胸がきゅんきゅんしてしまう。

「ごめんね?」
「かれんさまはーめめっなのー」
「うんっ、めめっだったよね? ごめんね!」

「めめっ」ってなんなの?
 ラピスがかわいすぎて、きゅん苦しくなって両手で胸を押さえる。

 ノワルのとろけるキスに身を任せていたらラピスが「もう十までかぞえたなのー!」と腰に手を当てて、仁王立ちになって怒っていた。
 ノワルはぷんぷんするラピスの頭をぽんぽんとなでると出ていってしまって、ぷんぷんするラピスと二人きりになったところだ。

「ラピス、一緒にすわろう?」
「やあやなのー」

「やあや」ってなんなの?
 もしかして、きゅんきゅんさせて胸を苦しくさせる新しいお仕置きなのかもしれない……!
 ラピスの可愛らしさに頬がゆるみそうになるけれど、ここで笑ったらゆるしてもらえないから必死に頬を引きしめる。

「ラピス、どうしたらゆるしてくれる?」
「ややなのー」

「やや」ってなんなの?
 ぷいっとそっぽを向いたのに、ちらちら見てくるラピスの瞳がうるうるしていて、もうきゅんきゅんが止まらない。
 ラピスと一日中離れていたからラピスが足りない。ちっとも足りていない。

 きゅんきゅんもいいけれど、ぎゅうぎゅうしたくてたまらない。
 ラピスの雨あがりの匂いに包まれたいし、体温の高いぷっくりした手もにぎりたい。
 キスをして、もふもふ龍になったラピスをもふもふしたいし――とにかくラピスが足りていない……っ!

 ちらちら見ているラピスに、思っていることを素直にそのまま話していくと、ラピスはふにゃりと笑っておひざに乗ってきてくれた。

「かれんさまはーぼくがいないとやあやなのー?」
「うん……っ! やあやなんだよ」

 向かいあったお膝の上のラピスをぎゅっと抱きしめる。
 くるんくるんの髪が頬をくすぐるのことも、石けんと雨上がりの匂いが優しく混ざりあっているのも心地よくて落ちつく。

 ぎゅっと抱きついていたのが苦しくなったのか、ラピスがもぞもぞと動いたので腕をゆるめると、雨にぬれたようなしっとりした青い瞳に見つめられる。

 ずっとそばにいて欲しい……。
 もしも、元の世界に戻ったらラピスは私の聖獣じゃなくなって、たっくんの鯉のぼりのあおくんに戻ってしまうのだろうかと思うと、ちくんちくんするような、もやもやするような、今までに感じたことのないどろどろした感情が込み上げてくる。

「……ラピス、このままこの村にいたい?」

 自分のずるい聞きかたに私も戸惑ってしまうけれど、どこかでオーリ君たちと一緒にいたいとラピスに思っていてほしいと期待してしまっている自分もいた。
 そんなずるい自分にもっとむかむかしてしまう。

「ううんなのーかえりたいなのー」

 考える間もなくラピスにあっさり否定されてしまい、なんだか無性に泣きたくなってしまう。

「かれんさまはー?」
「えっ?」
「かれんさまはーかえりたくないなのー?」

 きょとんと首を傾げるラピスを見て、私も同じようにこてりと首を傾げてしまった。
 みんなと離れたくはないけれど、元の世界に帰りたくないわけじゃなかったから。

「かれんさまー好きなのにつんつんしててーちくちくするものーなんだなのー?」
「ふえっ?」

 ラピスが嬉しそうににこにこしている。
 突然はじまったラピスクイズの答えはなんだろうと今度は首を反対の方向にこてんと傾げてみる。
 好きなのに、つんつん、ちくちくなもの……?

「あっ、わかった! ハリネズミ!」
「ぶっぶーなのー! つんつん、ちくちく、それにーもやもやなのー」

 にこにこ笑うラピスに、もやもやまで追加されるとなにも思いつかなくて、ラピスを困った顔で見つめる。
 ラピスはふにゃりと天使のようにほほえむと、えっへんと胸をはった。

「かれんさまーせいかいはーやきもちなのー!」
「ふえっ?」
「かれんさまーやきもちやいててーかわいいなのー」

 ラピスの答えにしばらく固まってしまい、頭を整理しようと目をつむった。

 ――ぽんっ!

「ふえっ?」

 唇にやわらかな感触とかわいい音が聞こえて、目をひらいてまぬけな声を上げた。
 ソファにいたはずなのに、いつの間にかテントの中にある自分の部屋のベッドの上に移動していた。

「まほうでいどうしたのー」

 もふもふ龍のラピスがぱたぱたと浮かびながらえっへんと胸をそった。

「かれんさまーやきもちのかわいいあじがするのー」

 もふもふ龍の脇に腕をいれて、ゆっくりと抱きしめるとふにゃりと天使のように目を細めて笑ったラピスにぺろりと唇をなめられる。

「かれんさまーたつやさまにやきもちなのー」
「ふえっ?」
「かわいいなのー」

 私がたっくんにやきもちを妬いている……?
 ラピスの言葉が何度もぐるぐると頭の中で回りはじめて、何度もぐるぐると回りながら、すとんと腑に落ちてしまった。

「そ、そうかも……。たっくんにやきもち妬いてるのかも……」

 そんな言葉が自分からぽろりとこぼれたら、ますますしっくりきてしまい大きく息をはいた。

「かれんさまーだいじょうぶなのー」
「えっ?」
「かれんさまもたつやさまもえがおにできるのー」
「……そ、そうなの?」
「そうなのー」

 ラピスの青空みたいな澄んだ瞳でまっすぐに見つめられると、なんだか大丈夫な気がしてくるから不思議だと思う。
 自信満々な笑顔を浮かべているので、つられて笑ってしまった。

「かれんさまはーわらっているのがかわいいのー」

 ラピスはふにゃりと嬉しそうに笑うとぺろりと唇をなめた。
 田植えをして疲れていた私は、ラピスのくるぅくるぅというおだやかな音色と癒されるもふもふを腕の中に抱きよせて、あっという間に深い眠りに落ちていった――。
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