甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

10-4 聖女と再会


 煌めく光が消えると、ずっと会いたいと願ってきたノワル、ロズ、ラピスの三人が執事服を着て立っていた。


「ふえええ?! な、な、なんで……? えっ、どうして……?」

 あんなに溢れて止まらなかった涙が驚きすぎて引っ込んだ。

「かれんさまーおそいなのー! まちくたびれたなのよー!」

 たたっと駆け寄ってきたラピスに思いっきりぎゅっと抱きしめられた。きゅるんと潤む青い瞳に見上げられ、くるんくるんの青い髪がやわらかく揺れる。ああ、もう、すごくラピスだと思う。

「えええ? ど、どういうこと……?」
「一緒にいるってやくそくしたなのー!」

 驚きすぎて目を瞬かせた。ノワルとロズに視線を向ければ、ベランダにはたっくんの鯉のぼりが変わらず泳いでいた。

「えっ、なんで? なんで鯉のぼりがあるの……?」

 三人が鯉のぼりで、鯉のぼりが三人なはずで、どうして同時に存在しているか不思議すぎて頭にハテナが浮かぶ。ロズとノワル、鯉のぼりに視線を泳がせていると、ロズが艶やかに口角を上げた。うう、もう、すごくロズだと思う。

「カレン様、たつや様の鯉のぼりに花模様が浮かんだのを見ましたか?」
「うん、見たよ。お花の家紋みたいなやつだよね……?」
「ええ、花家紋のことです。聖女様の魔力が花家紋を通じて、たつや様の鯉のぼりに届くようになったので、鯉のぼりと聖獣を自由に行き来できるようになったのです」
「そうなんだ……?」

 三人に会えるのはものすごく嬉しいけれど、たっくんの鯉のぼりから三人がいなくなるのはいいのだろうか。

「実は登龍門を二回越えたわたしたち三人が、ずっと鯉のぼりに留まると祝福が強すぎるのです」
「ふええ? そ、そうなの?」
「ええ、何事も過ぎたるは猶及ばざるが如しですから」
「えっと、そういうものなの……?」

 狐につままれたような、いや、鯉のぼりにつままれたような気分になっていると、頭を撫でられる感触がした。ゆっくり顔を上げると柔らかな黒色の瞳のノワルに見つめられている。目尻を細める仕草、優しく撫でる手つき。ああ、もう、すごくノワルだと思う。

「うん、そういうものだよ──でも、また遅くなって、本当にすまない」

 当たり前のように言ったあと、ノワルは眉を下げた。

「登龍門の守り人は、花恋様が本物の鯉ではないことと、俺たちが連れてきたことが気に入らなくてね。ひとつ条件を出したんだ」
「……条件?」
「花恋様と一緒に生きていきたいなら、愛の証明を見せてほしいと言われてね。花恋様は、聖獣は『聖女に名前を付けてもらう』こと『聖女の聖なる魔力』で力をもらうことは覚えてる?」

 一日三回のキスが必要だと言われたことを思い出す。思わず頬に熱が集まるのを感じながら、うなずいた。

「聖獣の姿に戻る条件は、花恋様に俺たちの名前を呼んでもらいながら、想いの籠った魔力を贈られることだったんだよ」
「ふええ? えっ、ええっ? ま、ま、ま、待って。もしかして、三人が今ここにいるのって、私がさっき名前を呼びながら泣いたからなの……?」
「うん、そうだね。花恋様の魔力が溶けた涙が、俺たちと花恋様を結ぶ小指に落ちたから戻れたんだよ」

 ノワルの言葉に膝から崩れ落ちそうになる。私が泣くのを我慢してたこの一年ってなんだったんだろう? もしかして、いや、もしかしなくても気持ちに任せて泣いていればもっと早く会えたなんて。もう、もう、もう!

「っ、教えてくれたらよかったのに〜〜〜!」

 心の声があふれて気づいたら、ここにはいない登龍門の守り人に向かって叫んでいた。
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