甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

10-5 聖女と甘やかな聖獣たち


 私の叫びは青空に吸い込まれていき、ノワルの黒い瞳に覗き込まれた。

「花恋様、かわいい。きっと登龍門の守り人にも聞こえてると思うよ」
「うう、ノワルが意地悪……」

 くすくす揶揄うように言うノワルをじとりと見つめる。

「ふふっ、ごめんね。今日会えて本当によかった。これでも焦ってたんだよ。泣き虫な花恋様が泣かないように頑張ってたからね」
「うう、ノワル、ごめんなさい……っ! 泣いたら会えないって認めちゃうみたいで、たっくんに鯉のぼり返したことを後悔しちゃいそうで……っ」
「花恋様を不安にさせて本当にごめんね」

 首を横に振る。ノワル達が登龍門を昇ってくれたから、戻って来れた。言葉にしようと思うのに、止まったはずの涙がまたあふれてきて、すう、と頬を伝う。すらりとしたロズの指が伸びてきて、優しくぬぐう。

「ロズもごめんなさい……っ! 会いたかった、寂しかった……っ」
「カレン様は仕方ないですね」
「うん……っ、ロズ達がいないと駄目だってわかってたけど、すごくわかった……」
「聖女と聖獣なんですから、当たり前ですよ。離れるなんて有り得ませんから」

 こくこくと首を縦に動かす。離れたくない。もう二度と離れるのは嫌だ。
 ぐりぐりとくるんくるんの青い髪が押し付けられた。下を向けばラピスの青い瞳と見つめ合う。

「ラピスもごめんね……っ! 一緒にいる約束したのにごめんなさい」
「かれんさまーいいよなのー!」

 ラピスの笑顔に涙腺が決壊した。なんで一年も泣かないでいられたのかもわからない。次から次に涙が頬を伝っていく。そんな私を優しく見つめる三人にぎゅっと抱きついた。

「みんなにずっとずっと会いたかった……っ! やっぱりみんなと一緒がいいよ……っ」
「花恋様、会いたかった」
「カレン様、会いたかったです」
「かれんさまー、あいたかったのー!」

 みんなに抱きついているとノワルの声が落ちてくる。

「花恋様はこれからどうしたい?」
「みんなとずっと一緒にいたい」

 愛おしくて大好きな三人ともう離れたくなくて即答するとらノワルに頭をぽんぽん撫でられる。日だまりみたいな匂いが懐かしくて、嬉しくて、もっと抱きつく。

「花恋様、かわいい」
「だって、もう離れたくないから」
「ふふっ、落ち着けるところに行こう。花恋様、ちゃんと捕まっててね、行くよ」 
「えっ、どこへ……?」


 ──パチン


 私の質問はノワルの指を鳴らす音に遮られ、あっという間に景色が一変した。

「花恋様、着いたよ」
「……えっ?」
 
 異世界でずっと使っていた鯉のぼりのテントの部屋に移動していて、鯉のぼりの口みたいに大きくぽかんと開いてしまう。
 ノワルに案内された玄関には扉が二つあった。今までは一つだったから不思議に思ってノワルに視線を向ける。

「鯉のぼりテントに扉を二つ付けたんだ。右の扉はこの世界、左の扉は異世界に繋げておいたよ」
「ふえっ?」

 びっくりして変な声が漏れた。えっ、扉ひとつで行き来できるなんて驚きすぎる。

「俺たち、登龍門を二回昇ってるし、異界を三回越えてるから神獣に近い存在になったんだよね。大体のことはできると思うよ」
「……っ? そ、そうなんだ?」
「うん、そうなんだ。花恋様は、家族や友達もいるし、大学にも通いたいでしょう? 俺たちもたつや様の鯉のぼりになるしね」
「あっ、うん、そうだね……」
「花恋様の大切な人や物は俺たちも大切にしたい。ただ、日本は重婚は禁止だし、みんなで外でいちゃいちゃできないのは困るから異世界でしようね」

 さらりと言われた言葉に心臓が跳ねた。外でいちゃいちゃなんてハードルが高すぎる。

「花恋様、聖女と聖獣が仲睦まじいのは当たり前だよ」
「鯉の姿のカレン様も素敵でしたし、今度は龍に変身もしてみましょうか?」
「たっくさんーかれんさまとーいちゃいちゃするなのー!」
「ひゃ、ひゃあああ……っ!」

 沢山の甘い誘いに恥ずかしくて嬉しくて、でもやっぱり恥ずかしくて叫んでしまう。

「これからも一緒に過ごそうね」
「いつまでも一緒ですよ」
「いつでもいっしょなのー」

 三人の言葉が嬉しくて、目の前にいることが愛おしくて。

「うん……っ! ずっと一緒にいてね」

 笑いながら返事をすれば、ラピスがにっこり笑ってくれる。ロズの指がするりと頬を撫でて、ノワルの唇が耳に寄せられた。

「花恋様、鯉のぼりテントは沢山の魔力がないと働かないんだよね。魔力を補充しないと扉が開かないかも?」
「ええっ?!」
「今からみんな(・・・)で交わる?」
「ひゃあっ! いきなりそんなの無理だよ……っ!」

 ノワルは綺麗な瞳を細めて、喉の奥でくつくつと笑い声を漏らす。

「花恋様、それなら一日三回のキスがいいかな?」
「っ! うん……っ!」

 やわらかな瞳に見つめられ、甘やかな予感に目をつむった。


 これからもずっと甘やかな聖獣たちは、聖女の私がとろけるようにキスをするから──






 おしまい
 
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