Dearest 1st 〜Dream〜





「……ぶん……」





「……話、聞いてくれてありがとうございました。

少しだけ楽になりました。




──じゃあ、失礼します。」






「───…ぶん!」






「……はい?」






「……無理……すんなよ。」





やっと告げられた言葉はそれだけだったが、






「───…はい…。




ありがとう──…




ございます……。」






ぶんは微かに微笑み、

そのまま背を向けて砂浜を一人、歩いて行ってしまった。





俺もまた背を向け、二人は逆方向へと歩き出した。








──…と、前を見た瞬間。







遠くの方で、彩が一人きょろきょろと周りを見つめている姿があった。






……きっと、ぶんを探してここまで来たに違いない。






「──彩!」






俺が呼び止めると、彩はくるりと振り返り─…






「…朝岡さん…」






「ぶんやろ?

あっち歩いて行ったの見たで。



これ持って行き?」






俺は持っていた花火とライターを彩に手渡した。






「──…ありがとう…」






俺は何も知らない彩の背中を押した。







「──…俺はいつでも応援してるよ。」






それだけ告げ、もう振り返らずに歩き出した。











本当は





何もかも話してやろうかとも思った。






話して奪えたら……





話して諦めてくれたら……





そんな汚い事も考えた。






でも





何もかも

ぶち壊したところで、






一体何になるんだろう?






……そう考えたら






何にもならないと思った。





きっと






彩の心までは奪えない。





二人の問題に足を突っ込めない。





そう………





ただ漠然と思った。






俺はただの





“傍観者”に過ぎないんだと───…。


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