【コミカライズ原作】副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜

聞くに堪えないおぞましい内容に、会議室が「シーン」となる。そして、社長が口を開いた。


「青木さんはなぜ、当時誰かに言わなかったのですか?」

「パート清掃員の言うことを、誰が信じてくれると思いますか? 信頼していた倉田支配人もいない、ちゃんとした証拠もない、最後には脅しときた。もう墓場まで持って行こうと思ってました。

 でも、死が近い私がまさか、倉田支配人の娘さんにお会いできるとは思いもよりませんでした。彼女が頑張って生きている、しかも支配人と同じホテルで……17年も後悔と共に生きてきたんですよ? 死ぬ前に、支配人と彼女のためにひと肌脱ごうと思いました」


水嶋専務はもう怒りを通り越して、顔面蒼白になっている。全ての悪事が明るみに出てなす術もない、という心境だろうか。

そして、澪が口を開いた。


「専務は直接何か手をかけた訳ではありませんが、いつも身近な誰かが、あなたのために手を汚してきました。私は決して、あなたのことを許せません。恐らく一生。
 でも父の日記にはこう書いてありました」

澪はふぅ、と一息ついてから続ける。


「『彼は、ホテルが苦しい時も一緒に乗り越えてきた、戦友のような存在だ。また元気になってほしい』と。

 また、日記の最後のページには、『何か起きても、誰も恨まないでほしい』と書いてありました。もしかしたら、父はこうなることを予測していたのかもしれません。……父は、あなたのような人でも『大事な戦友だから』と言って、許すのでしょうね」


澪がそう告げると、水嶋専務は膝を折ってその場に座り込み、嗚咽しながら泣き始めた。

誰よりも辛いのは澪なのに、お前は泣く権利なんか無いんだぞ? それが分からないのか?
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