今夜君に、七年越しの愛を
「──お姉ちゃん?」
「っ!...、はぁ...、びっっくりしたぁ!」
「わ、大丈夫?ごめんごめん」
紗和が起きてきた物音に気づかず、背後から声を掛けられ思わず飛び上がった。
歯磨きの最中。
おかげさまで、着替えたばっかりの服が可哀想なことに。
無残な様子に何だか笑いこみ上げてきて、すると紗和もクックッと笑った。
悲惨な状況に対して不謹慎だけど、ひどい有様に二人揃って笑ってしまう。
「早起きなんて、さすが受験生。偉いね〜」
「我が家で、朝ほど静かな時間帯はないよ」
「たしかに」と頷いて、汚い服を脱いで急いでご飯の準備にかかった。
卵用のフライパンを用意し、冷蔵庫から卵とベーコンを取り出した。
「...ネカフェ?」
どこに泊まっていたの、という意味だろう。
私の隣でご飯の用意をする紗和が、徐ろに口を開いた。
「う~ん、......うーんと、ね...」
これ何と答えるのが正解なの?
「秘密にさせてくれない、?」
「...別にそこまで気になったわけじゃないよ。お姉ちゃんが帰ってきてくれるだけでほんとに良かったから」
本当に素敵な子だ、紗和は昔から。
「...なに笑ってるの?」
ぶっきらぼうだけど、優しい心を持った子なのだ。
「いや、紗和が可愛いな〜ってね!」
早起きな麦のおぼつかない足音が廊下から聞こえてきた。