今夜君に、七年越しの愛を
「お疲れ様です!桜井入りました」
幸い朝シャンも出来て、着替えて、職場に戻ってきた。
ホテルには沢山の人がいる。
フロントクラークにコンシェルジュ、バトラーは裏にはあまりいないけど。
ハウスキーパーはもちろんリネンスタッフもいるし、時々支配人が来ることだってある。
私の持ち場は、フロントの裏。
ブッキングの管理、諸々の報告書、ドアからベルクラークへの取り次ぎ...etc
珍しく、事務は1人のほうがやりやすい事も多く、昼はわたし桜井、夜は橋本さんの2人だけだ。
フロントクラークはお客様のご案内をしたり、格好良いホテルの顔的存在。
コンシェルジュはさらにアクティブな何でも屋さんである。
事務職は我ながら地味だなと感じる場面も多いけど、きらっきらのロビーと客室やお客様の笑顔を見ればどんな疲れも吹っ飛んでしまう。
それに、旅行客と裏方のそれぞれ違った喧騒の狭間で仕事をするのはどうも気性に合っているらしい。
「黒木様のお荷物を」というドアマンからのインカムでベルボーイの手配をする。
手の空いている人を探し、発信器を鳴ら───
「チェックアウトを」
ロビー側から聞こえてきた声に何気なく顔を上げると。
ピシリと顔が強張るのが自分でもわかった。
拍子に間違った場所を押してしまい...うわあドアマンを呼んでしまった。
「すみません間違えました配備は結構ですすみません」と慌てたせいで早口で捲し立てる。
ちょうど...フロントは二人とも外している。
はいはい...私の出番ですね。
因みにしっかり業務内容に含まれてるのでどんな客相手だろうが逃げは許されません、ハイ。
「かしこまりました。ルームキーのご返却ありがとうございます」
鍵の番号を見て、追加精算が無いか確認する。
フロント業務はフロントクラークがいない時だけの特別な作業で、私好きなのに。
こういう時はいつもよりテンション高めに接客させて貰ってるのに。
真正面の視線が痛くてどうも気になる。
逆にこんなにあからさまなガン見ってある?っていうくらい。
そう言えば同じことがあったような気が...
確か高二。
隣の席、視線を感じて私だけぎこちなくなって...
って!だめだめ、集中しなきゃ。