The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
「…戻ってこい、フューシャ」

彼女は私を責めることはなく、代わりに静かにそう言った。

諭すような口調だった。

「分かっているはずじゃ。そなたはルティス帝国の人間ではない。普通の女ではないのじゃ。これ以上…男を騙して、仮初めの幸せに浸るのはやめろ」

ミルミルの言葉の一つ一つが、私の胸に突き刺さった。

全て、彼女の言う通りだった。

「妾がここにいるということがどういうことか、分からぬそなたではあるまい。もうすぐ…憲兵局との戦争が始まる。ルティス帝国と箱庭帝国、両国を巻き込んだものになろう。この国にいる限り、そなたも無関係ではいられぬぞ」

「…」

「そなただけの問題ではなくなるのじゃ。既に、憲兵局の秘密部隊が動き始めている。革命に関わっているルティス人とその家族を狙ってな」

私は思わず、はっとして顔を上げた。

…革命に関わっているルティス人と、その家族が?

「そなたの思い人も…いつ憲兵局に襲われてもおかしくない。そなたのせいで…思い人が死んでも良いのか」

…良い訳がない。

私のせいであの人が傷つくなんて、考えただけで寒気がする。

「戻ってくるのじゃ。今なら…まだ引き返せる。そなたはこちら側の人間じゃ。現実を見ろ」

「…ミルミル…私…」

「…そなたが我らを裏切ったとは思わん。二年間なしのつぶてだったことも、責めはせん。だから…戻ってこい」

ミルミルに差し出された手を、私は恐ろしげに見つめるだけだった。

どうしても、その手を取ることが出来なかった。

ただ、恐ろしくて堪らなかった。

ミルミルは溜め息混じりに手を引っ込めた。

「…まぁ良い。覚悟を決めたら、連絡をくれ。いつでも迎えに来るからな」

「…」

「そなたが無事だということが分かって良かったよ」

ミルミルはそう言い残して、踵を返した。

彼女が去った後、私はしばらく…そこから動けなかった。
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