The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
「…?」
十歳かそこらのときだったと思う。
その頃トミトゥは、俺に仕えるようになって半年もたっていなかった。
その日、彼女は俺にお茶のティーカップを持ってきた。
ふと見ると、彼女の指には、切り傷のようなものがあった。
それも、一つや二つではない。
ほとんど全ての指に、赤い線が刻まれていた。
一目見るだけで、とても痛そうだった。
その傷を、絆創膏も何もせずに放ったらかしにしているのだ。
「…それ、何?」
思わず、俺は声をかけてしまった。
「え…?」
いつもは、仕事があるときしか使用人と会話をすることはない。
それなのに唐突に質問を投げ掛けられ、トミトゥは戸惑っていた。
俺の言う、それ、が何を指しているのか分からなかったのだろう。
「その傷…何?」
「あっ…申し訳ありません。お見苦しいところを」
トミトゥはさっと指を隠した。
きっと俺が、汚い傷を見たことで気分を害したと思っていたのだろう。
「何であんな傷があるの?」
恥ずかしながら、俺はあんな傷が出来たことはなかった。
だからあれが何なのか、全く分からなかった。
何か、皮膚の病気なのではないかと思っていた。
「何で…と申されましても…。その、昨日は水仕事が多かったもので」
「…」
その傷は所謂、あかぎれ、と呼ばれるものだった。
冬だというのに、井戸から汲んだばかりの冷たい水で洗濯や皿洗いをしていたら、誰だってそうなる。
それなのに、俺は全くの無知だったのだ。
「痛くないの?それ」
放置しているということは、多分見た目ほどは痛くないのだろう。
痛いなら、テープを巻くなり、薬を塗るなりするだろうから。
しかし。
「水に触るときは少々痛みますが…。でも、慣れているので大丈夫です」
…え?痛いの?
「テープを巻けば良いのに。何で巻かないの?」
「…」
トミトゥは困ったような顔をしていた。
今から思えば本当に恥ずかしいが、俺は知らなかったのだ。
例え消毒液や絆創膏程度のものでも、使用人にとっては簡単には手の届かない高級品であったことに。
「…お気遣い、ありがとうございます。若旦那様」
トミトゥは誤魔化すようにそう言って、そそくさと俺の傍から去っていった。
俺は首を傾げたが、しかし、それ以上深く考えることはなかった。
俺と彼女の決定的な差を、次に見せつけられたのは…その一ヶ月ほど後のことだった。
十歳かそこらのときだったと思う。
その頃トミトゥは、俺に仕えるようになって半年もたっていなかった。
その日、彼女は俺にお茶のティーカップを持ってきた。
ふと見ると、彼女の指には、切り傷のようなものがあった。
それも、一つや二つではない。
ほとんど全ての指に、赤い線が刻まれていた。
一目見るだけで、とても痛そうだった。
その傷を、絆創膏も何もせずに放ったらかしにしているのだ。
「…それ、何?」
思わず、俺は声をかけてしまった。
「え…?」
いつもは、仕事があるときしか使用人と会話をすることはない。
それなのに唐突に質問を投げ掛けられ、トミトゥは戸惑っていた。
俺の言う、それ、が何を指しているのか分からなかったのだろう。
「その傷…何?」
「あっ…申し訳ありません。お見苦しいところを」
トミトゥはさっと指を隠した。
きっと俺が、汚い傷を見たことで気分を害したと思っていたのだろう。
「何であんな傷があるの?」
恥ずかしながら、俺はあんな傷が出来たことはなかった。
だからあれが何なのか、全く分からなかった。
何か、皮膚の病気なのではないかと思っていた。
「何で…と申されましても…。その、昨日は水仕事が多かったもので」
「…」
その傷は所謂、あかぎれ、と呼ばれるものだった。
冬だというのに、井戸から汲んだばかりの冷たい水で洗濯や皿洗いをしていたら、誰だってそうなる。
それなのに、俺は全くの無知だったのだ。
「痛くないの?それ」
放置しているということは、多分見た目ほどは痛くないのだろう。
痛いなら、テープを巻くなり、薬を塗るなりするだろうから。
しかし。
「水に触るときは少々痛みますが…。でも、慣れているので大丈夫です」
…え?痛いの?
「テープを巻けば良いのに。何で巻かないの?」
「…」
トミトゥは困ったような顔をしていた。
今から思えば本当に恥ずかしいが、俺は知らなかったのだ。
例え消毒液や絆創膏程度のものでも、使用人にとっては簡単には手の届かない高級品であったことに。
「…お気遣い、ありがとうございます。若旦那様」
トミトゥは誤魔化すようにそう言って、そそくさと俺の傍から去っていった。
俺は首を傾げたが、しかし、それ以上深く考えることはなかった。
俺と彼女の決定的な差を、次に見せつけられたのは…その一ヶ月ほど後のことだった。