The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
俺はその日、部屋に運ばれてきた夕食を残した。

と、いうのも…。夕食前に、こっそりおやつのマドレーヌをたくさん食べたせいで、お腹が空いていなかったのだ。

だから、おかずと、それからパンに添えられていたジャムだけを食べて、パンはほとんど残してしまった。

汚く食べた食器と、一口二口だけ食べて残ったパンを置き去りに、俺は部屋を出て寝室に向かった。

寝室に向かって歩きながら、ふと忘れ物をしたことに気づいた。

羽織っていたジャケット、食事する前に脱いで、そのまま椅子にかけて忘れてきてしまった。

後でトミトゥに取りに行かせても良いが、今夜は冷える。仕方ないから、自分で取りに行こう。

そう思って、俺は引き返した。

そして先程までいた部屋に戻ると、そこにはトミトゥがいた。

食器を片付けに来たのだろうと思っていると、トミトゥははっとして、手に持っていたものを落とした。

「…っ!」

「…何やってるの?」

トミトゥの手からこぼれ落ちたものを見て、俺は思わずぽかんとしてしまった。

トミトゥは、パンを食べていた。

俺が少し齧って置き去りにしていたパンを、彼女はジャムもつけずに一心不乱に食べていたのである。

「ごっ…ごめんなさい!ごめんなさい!」

トミトゥは土下座せんばかりに、必死に謝っていた。

俺が怒りに震えていると思ったのだろうが、俺は怒ってなどいなかった。

怒りより、驚きの方が強かったのだ。

…トミトゥは、一体、何をしてるのだろう?

「…何で、そんなもの食べてるの?」

「えっ…」

手付かずのパンならまだしも。

僅かに齧って放置していた、食べかけのパン。

それも、ジャムもバターもつけていない、味のしない、美味しくないパンだ。

俺だったら、見向きもしないような代物。

それなのに何で、彼女はそんなものを食べているんだ?

「何で?」

「…ごめんなさい。私…どうしても、お腹が空いて…」

トミトゥは、歯を食い縛るようにして、消え入りそうな声でそう白状した。

…お腹が空いていた?

恥ずかしながら、この時は、俺は信じられなかった。トミトゥの言ったことが。
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