The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
名前は、トミトゥといった。

トミトゥの母親も、うちに仕える下女の一人だった。

親子で、住み込みで働いていた。

トミトゥは俺と同い年だった。それなのに彼女は、俺より遥かに働き者だった。

うちに来たとき、トミトゥはまだ十歳にも満たない子供だったのに、大人と同じくらいよく働いた。

けれども俺は、それを特別なこととは思わなかった。

あの国では、子供でも大事な労働力だ。一般家庭においても、五歳にもなれば子どもは家事を任されていた。

実際うちにはトミトゥの他にも、多くの子供の使用人がいた。

子供達は、水汲みや料理の下ごしらえなど、単調な雑用をこなしていた。

そしてトミトゥの仕事は、俺の身の回りの世話をすることだった。

同い年の子供なのに、俺は何から何まで丁寧に世話をしてもらって、トミトゥはその俺の面倒を見なきゃならないなんて、理不尽な話だ。

けれども俺は、そんなことさえ気づかなかった。

幼い頃から、誰かに世話をしてもらうのが当たり前だったから。

父がいつも言うように、俺と彼らは、生まれた世界が違うのだ。

俺達は生まれつきの勝ち組。でも彼らは、生まれつきの負け組。

だからこれは仕方ない、当たり前のこと。

父はそう考えていた。俺もそう考えていた。

確かにそうなのかもしれない。あの国においては、生まれが人生のほとんど全てを決めていた。

けれども、トミトゥが教えてくれた。

俺達の華やかな生活の下で、虐げられている人々がどんな思いをしているのかということを。







…最初に気づいたのは、トミトゥの指の傷だった。



< 33 / 791 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop