レンアイゴッコ(仮)
「……落ち込んでた?」
酵母が糖を分解して発生した二酸化炭素によってパンが膨らむように私の脳内に起こったとある化学反応。
聞き捨てならない言葉を反芻させると「反対に柑花ちゃんと付き合えた時は、めちゃくちゃよろこんでたよ」と、ありえない情報までもらい、化学反応は大きく膨らむ。
「うそでしょ?」
まさか、無表情なおとこが、喜ぶ?
「どうせシノがやらかしたんでしょ。あいつ、周囲への配慮が著しく欠けた男だもんなあ」
ぐるぐると嫌な予感が渦巻いていると、さすが学生時代の先輩というだけあって、佐々木さんはまるで東雲のことを見ていたかのような言い草だ。
何も答えられずにはむっと串を頬張ると、無言を肯定と受け取ったらしい佐々木さんは、器用に串打ちしながら続けた。
「でもシノさ、あいつ分かりにくいけど、慣れると分かりやすくて可愛いやつだよ」
わかる、凄くわかる。
もぐもぐと咀嚼する口を手で隠しながらうなずいた。
「彼女どころか女の子を連れてくることないから、ああ、特別な子なんだなって」
これは申し訳ないけれど共感できない。
「同僚としてですよ」
何度も納得させた言葉をぐるぐるのボールにして、佐々木さんに投げつける。佐々木さんは笑う。
「またまた〜。シノはそんな器用な男じゃないって」
「だって、東雲、好きな人いるんですよ?ずっと、ずーっと同じ子を好きなんです」
「だからそれ…………て、そうか、薄々感じてたけど、そんな感じなのか」
「(どんな感じ?)」
聞き返したかったけれど、「すみませーん」と、佐々木さんはお客さんに呼ばれて肝心なことは聞けなかった。