レンアイゴッコ(仮)
仕事が終わると一人で“金のわらじ”の暖簾を潜った。

東雲からの連絡も無かった。というより今日も東雲は残業していたので、私から誘うという選択肢も離れていったのだ。

「いらっしゃい!……と、柑花ちゃん一人?」

「はい。ここ、いいですか?」

「どうぞどうぞ。あ、小籠包とビールでいいかな」

「もちろん!あと、ハツのタレと梅しそと厚揚げお願いします!」


佐々木さんは忙しなく串焼きに励んでいて、炭に炙られて焦がされたタレの良い香りが充満している。

ビールと串焼きをカウンターから手渡され、食欲がそそる。けれどもいつもの男が隣にいないので乾杯が出来ない。

美味しそうだねと、普遍的な価値観を共有したいだけなのに。

そんな虚しさを“いただきます”に閉じ込めて、手を合わせるとジョッキを持つ。

「そう言えば、シノとなんかあった?」

佐々木さんは追加の串をカウンターから寄越すので、必然的に顔を上げる。

「なんか……ありましたね」

佐々木さんに隠す事でもないので、素直に伝える。

“素直になること”東雲の前では難しいのに、他の人相手だと途端にイージーになる。

「でしょ。あいつこないだ来た時、そこでめちゃくちゃ落ち込んでたから」

素直な私に、佐々木さんはアンサーをくれる。
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