レンアイゴッコ(仮)
「ま、間に合いました!ありがとうございます!」

顔から火でも出るんじゃないのかって勢いで、氷を受け取ると、苑田さんもホッとしたようなため息を落とした。

「ああ、良かったー……こんな綺麗な肌に傷でもついたら一生責任負わなきゃだよ!?」

「その時は責任取るけど」

問い詰められた東雲は、平然と言い切ってしまうから、私の平熱はみるみる上昇していく。こんな氷じゃすぐに溶けてしまう。

「え……あれ?東雲くん、そんなキャラだったっけ?」

「うるさい。妃立、これありがとう。今後気をつけろよ」

東雲はもう、随分とぬるくなったであろうコーヒーを受け取って、オフィスへ戻ろうとした。けれども、そんな東雲を苑田さんは追い掛ける。

「あ!ちょっと聞きたいことあるんだって……!じゃあ妃立さん、お大事に!東雲くーん!」

「知らん。お前を雇ったのは部長だから部長に聞け」

「良いでしょ?心細いのよー……」

ドアを閉める寸前に聞こえた言葉にまたモヤモヤを感じていると、

「派遣やってて心細さ感じてんの?ウケる。派遣向いてねえよ」

と、東雲は優しさの欠片も見せず、キッパリと断っていた。前回はあの子のことを受け入れてたのに、これは大学の友達への対応?

「(……あ、)」




『他の子に、優しくしないで』



そうだ、あの時の私の、お願いだ。

「(……彼氏だ……)」

散りばめられていた点が結びついたその時、ぎゅうぅ……と心が狭くなった。緩やかなパーマヘアとすらりとのびた色白のうなじを見送りながら、今更、頬の熱に気付く。
< 159 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop