レンアイゴッコ(仮)
「ねえ柑花。私の記憶違いじゃなければ、前の恋愛で、同じ業界同士で付き合うの辞めるって貴女、怒り任せに話していませんでした?」

左側から、桜雪がひどく丁寧な口調で嗜めるので、きゅっと身を縮こめた。

「はい、しました」

二人には毎回、東雲にメンタルケアをしてもらった後に恋愛事情を報告していたから、それほどボロは出していないはずだった。

「さゆ、こいつ馬鹿だから仕方ない」

「過去は振り返らない主義なの」

「都合良すぎ」

右側で絃葉がうんざりするし、私も都合の悪いことは聞き流すことにする。

「でも、社内恋愛って夢があるじゃん。楽しい?」

「楽しい、というか。東雲は私のこと、なんとも思ってないんだよ」

「どういうこと?」

「勢いというか、ノリで付き合ったというか。東雲は私に付き合ってくれてるだけなんだよね。週1飲みに行く。困ったことがあれば助け合う。同期以上恋人未満、そんな感じ」

言葉にすると、言いようのない虚しさが襲う。「待って」と、左側からストップがかかった。

「柑花、ワンナイトは絶対だめだって。また高校の時みたいに変な男に引っ掛かるよ?」

あ、同期なら知ってるのか……。とか、桜雪は一人で解決しようとした。

「違う。ワンナイトじゃない。ていうかそもそも、恋人らしいこと、全くしてない」

虚しさ、再び。
自分の発言に傷つけられるなんてこと、あるのだろうか。

「何のために付き合ってるの?つか、付き合う意味あんの」

絃葉が嘲笑う。

確かに、私たちのこの関係に、実りなんてあるのか分からない。
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