レンアイゴッコ(仮)

「今日、友達と飲み行くんじゃなかったの」

けれども東雲は、事件でも事故でもない私のただの我儘を叶えてくれる。何の変哲もないことがどうしようもなく嬉しくて、すぐ近くにある記憶を辿った。

「うん。でも弟とも一緒だったから、実質身内の飲み会よね」

「ああ、例の弟」

「うん。東雲は兄弟いる?」

「妹が一人」

「……え、待って。東雲、兄なの?」

「一応。つか、今外?」

「うん。帰宅途中〜」

「…………ちゃんと明るくて人通りの多い道を歩けよ」

その間は一体何。

「分かってますよ」

心配性の男は、今日もまた世話焼きである。けれども兄属性、と言われて、確かにその面倒見の良さもうなずける。

私だけなら良いのに。

なんて、叶いもしないから、せめて夢見ることだけは許して欲しい。

カツカツと私を追いかけていたヒールの音がスピード緩め、程なくして消える。四角い窓からポツポツと灯りの零れるマンションを見上げた。

とくん、鼓動が跳ねる。

「ねえ、東雲」と、名前を紡げば「事件?事故?」と、東雲は茶化す。

「飲み会のあと、恋人に会いたくなるって、前に話してたじゃない?」

「ああ、言ってたな」

記憶違いでは無かったことに安堵すれば、また、鼓動が甘酸っぱい音を聞かせる。私に似合わない音。壊れかけの音。

「……私も、東雲に会いたくなった」
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