レンアイゴッコ(仮)
ぎゅっと目を瞑れば、自分の鼓動の音が耳に張り付いたように大きく、強く聞こえた。耳が熱い。

「…………は?」

しかし電話口の声は、その炎を一瞬で消化させた。

だよね、職場で会ったくせに何言ってるんだって話だよね。毎回、私が押し掛けるから仕方なしに会っているだけで……、

ぐるぐると脳内で最適解を探す。そして、私の脳はよくやった。

「なんてね!うそ!じゃあ、もうお家着いたから……おやすみ!」

嘘は悪いことだけど、世の中には、平和的解決の為に必要な嘘もある。

「……おやすみ」

無機質な別れの挨拶を聞き終えるとスマホを耳から離し、はあー……と肩から緊張を落とした。

何やってんだろ……。

勝ち目のないたたかいに辟易する。どうせ明日会えるのに、何故“もっと”を望んだのだろう。

目の前にある東雲のマンションを見上げて、くるりと背を向け今度こそ帰路についた。明日会った時に、今日のことを笑い飛ばせるようにと、惨めな言い訳を考えながら。
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