レンアイゴッコ(仮)
図らずも、ふふ、と笑っていれば「こっち向いて」と耳に良い声を流し込まれた。
好きな人に言われたら従ってしまう。致し方ないことだ。
振り向けば、東雲は私の髪の毛をさらりと掬った。その髪の毛をそっと耳にかけるタイミングでくちびるを合わせた。一、二、啄むようなキスが落ち、東雲は何かを探るように、三回目で深い部分まで踏み込んだ。
他の誰とも違う、東雲のキス。東雲との“レンアイ”は初めてなので分からないことばかり。
ハグのタイミング、キスのタイミング、身体を重ねるタイミング。
ぜんぶ仮初で、ただの“ままごと”かもしれないけれど、それでも、東雲のキスはやっぱり気持ちいい。
「(いままでの彼女とも、こんなキス、してきたんだ……)」
同時に、仕方の無いヤキモチを繰り返す。
顔が離れると至近距離で目が合う。
「そのオムライス、俺の」
「やだ。失敗したのは私のだよ」
「駄目。俺が食う」
どういう理屈だ。……それに。
「……もうキスしないの?」
名残惜しくて強請ると、東雲はため息を吐き出した。
「……お前なあ……」
諦めたような顔。我儘は失敗したと思った。けれどもその後、東雲に着信があるまでキスは続いた。背中が辛くなってずるずるしゃがみこんで、床に座ってもキスは止まらなかった。
流されてるって、実感する。