レンアイゴッコ(仮)
「部長〜、この無礼者に白昼堂々引き抜かれようとしてます」

困った時は周りを頼る。挙手をしてアピールすれば、部長がすぐにこちらに気づいた。

「駄目駄目、妃立さんがやめちゃったら、うちの課の士気に関わるから」

部長はお世辞でいなすので、何を言っているんだと、うんざりする。

「頼りにされちゃってるね。気が向いたら、連絡して」

しかし彼はすんなりと納得したらしい。

「するわけないでしょ」

渡された名刺にプラスされている役職。昇格した自慢をわざわざ元カノにするタイプの男らしい。とてもうざい。

打ち合わせで頭を使った直後にメンタルまで疲弊した。今日は甘いものを食べても許されるんじゃないかな。

はあ…………と、重たいため息を落として、それから振り向くと、遠くの位置でこちらを見遣る坂下先輩と鈴木の二人がいた。その目は好奇に満ちていて、嫌な予感がする。

「妃立い〜。さっきの、私の見間違いじゃなければ元彼よね」

ほらね!彼のおかげで、同種の恋人が出来た際、同僚には内緒にした方が良いと学んだのだ。

過去は消せない。

「記憶から抹消したい彼氏ですね」

消せないので、認めてしまう。

「やっぱり。東雲がヤキモチ妬くわよ〜」

「まさか、………………」

そんな、と言おうとした口をやめ、ぎこちなく振り向く。

「……ヤキモチって……どうして?」

「どうしてって……ねえ?」

「ねえ」

坂下先輩と鈴木が顔を見合わせるので「ねえ!」と、催促する。
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