レンアイゴッコ(仮)
「(東雲の思惑通りにさせるもんか……!)」
対抗心を燃やした私は、お望み通り超警戒してあげることにした。もしもそういう雰囲気になろうものなら、即、奇声をあげようじゃないか。録音してあげようじゃないか。
「運転、お願いしてもいい?」
駐車場に向かう途中に声をかけると、「良いよ。帰りよろしく」と、帰りの運転の見返りとして了承すると運転席側に乗り込んだ。しかしそれは困る。会議で脳を使い切った身体で運転は宜しくない。
「帰りよりも行きがいい。お互いの安全のためにそうしよう」
提案しながら助手席に乗り込むと、シートベルトを装着する東雲は片方の口角を静かに上げた。その横顔、たった数ミリ程度の笑顔。すっきりと横に流れたその目が私を捉える。
「馬鹿、真に受けるな。車酔いしたら早めに言えよ」
どうやら運転手は引き受けてくれるらしい。
「ごめん、この車のETC助手席側だった。カード入れて」
東雲はそう言ってカードを渡すけれど、何処にあるのか分からない。
「え、どこ?」
「足元に無い?」
「足元?」
残念ながら暗くて見当たらず、キョロキョロと探していると、カチャ、と軽い音が聞こえた。シートベルトが外されたのだ。
ふわりと優しい石けんの香りが近寄る。