レンアイゴッコ(仮)
東雲の大きな身体が私の目の前で窮屈そうに屈められる。匂いとか大丈夫なのか、急激に心配になる。袖口が足に触れた。いっとう大きく脈打つ心臓。

「ば、場所だけ教えて貰えたら、自分で出来る……!」

「は?もう終わったわ」

「……へ、」

東雲が身を起き上がらせた。絡み合う視線。

──『安心して手が出せる』

先程の言葉が蘇るのは容易い事だった。

「……っ!」

その至近距離に驚き身を引き頭をヘッドレストに強打した。


「ビビりすぎでしょ。そんな警戒しなくても、すぐに取って食わねえよ」


──怖いものがないのか、この男。

準備が終わると、東雲は驚くほど丁寧に車を発進させた。

距離さえあれば安心だ。じいっと東雲を見つめる。

「……なんだよ」

顔がいいんですよ、お顔が。

「東雲も五歳くらいの頃はカブトムシにロマンを感じる少年だったのかなと」

本音はもちろん言えないので皮肉で返した。東雲は鼻で笑う。

「カブトムシと恐竜が嫌いな男はいねえよ」

「想像つかない……」

ロマンを求める東雲少年と言うよりも、なにかに夢中な東雲なんて、実在するのだろうか。
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