レンアイゴッコ(仮)
理由をあげるなら、あまりに近くに東雲が居たから。脊髄反射の如く目を瞑ってしまえば、微かに笑い声が聞こえた。笑い声と言うよりも、吐息に近い。

「ビビりすぎ」

これが東雲の娯楽の一部であることに気づき、頬の体温が上昇するのを感じる。

「んな、警戒心丸出しの女に手を出そうとは思わねえわ」

引っ掻かれそうだし、と続けた東雲は立てた膝を伸ばして、私から体を離した。

「べつに、警戒してないし」

「ガチガチに身体強ばらせておいて、よく言うわ」

「そんなことないもん」

「警戒してない?」

「してないって言ってる」

「ふうん、先に風呂入るわ」

「一時間は帰ってこないで」

「無理言うな」

自分用の着替えと私の服を用意した東雲は浴室へと向かった。一人きりになると、ようやく身体を脱力させる。

警戒してないなんてもちろん嘘だ。お望み通りに緊張してしまっている。

罪深い男だ。あれで本命は他にいるっていうんだもん。
犠牲になった同士たちと手を取り合って。東雲に振り回された女の会を主催したら盛り上がるじゃないかな。
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