レンアイゴッコ(仮)
自戒して手を離そうとしたけれど、残念ながら、ビクともしない。冷たいはずの東雲の体温は私のと中和されて同じ温度になっていた。


「練習って……丁寧に扱われるような価値、私にはないよ」


恋多きと言えば聞こえは言いけれど尻軽と罵られることもあるし、自分も認める。惚れるのも早ければ忘れるのも早い。だからこそ、こんな扱いは慣れない。

大事にされるなんて、されたことがない。


片手を繋いで、見つめ合って、腹の中を探って。一体、これはなんの応酬だ。


「それでも、妃立にとってどうでもいい一部にはなりたくないわけよ」


仕事もプライベートも律儀な男だ。その堅実さが東雲の人物像を形成させている。無愛想だけれど、信頼されているわけだ。

真っ直ぐ見つめられる。東雲らしさが伺える。持ち帰って好きにしてもらう方が楽で、順番を辿る恋愛は正直不慣れ。

のろのろと視線を下げた。

「妃立」

よって、悪いけど、名前を呼ばれても反応できない。

「妃立柑花」

「……聞こえてるって」

「柑花」

「……っ」


突然、意図せず名前を呼ばれ、何かに負けた私は顔を持ち上げた。引き寄せられるみたいに東雲の欠点ひとつ無い顔が飛び込んできて、息が止まる。
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