レンアイゴッコ(仮)
記憶になくても、第六感というものが働いた。

「……まさか、正爾の……?」

おそるおそる問いただせば「そうそう、まーくんの!」と、嫌な勘が当たってしまった。ということは、この電話の向こう側にいるのはあの夜真っ裸で正爾と寝ていた女らしい。

「あの時はごめんね、全然話聞いてなくて。二股なんて酷いよね?」

らしい、ではなく、確定。

「勝手に謝らないでもらえるかな」

二股なんて知らないし、普通に喋れるこの女の精神状態が計り知れない。

「やだ、そんなに怒んないでよ。私たち、同じ被害者みたいなものじゃん」

「被害者?」

「罪を憎んで人を憎まずって言うじゃない。それに、罪だとしてもまーくんは柑花ちゃんに怒られてるんだから、それで良くない?」

「…………は?」

せっかく水に流そうとしていたのに、源泉を掘り当てたかのような濁流で押し戻された気分である。

けれども、過去のことにして消化しようとしている人によって、感情を荒立たせるのも勿体ない。

シャワーの音が聞こえた。東雲が戻る気配はまだない。

「……それで、なんの用?」

何度か深呼吸をして心を落ち着かせた。
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