レンアイゴッコ(仮)
「じゃあ俺、帰るわ」

綺麗にお皿を洗い終え、陳列まで完璧に仕上げた東雲はスーツのジャケットを腕にかけて帰る支度を始めた。

もう少しゆっくりしていくものだと思っていた私は肩透かしにあった気分だし、私の思惑を達成していないから、ちょっと焦る。


「えー……プリン一緒に食べようよ」


なので、子どもみたいな我儘を言ってみたりする。

「プリンは一人で食べろ」

東雲は大人をやめない。

「じゃあ、コーヒーは?」

「さっき貰った」

「お酒」

「今度の金曜」

けれども、私ごときでは、東雲の気持ちは引き止められないらしい。

観念した。

「……じゃあ、お願いがあるんだけど」

引き止めるのを諦めて、素直に告げると「何」と、ぶっきらぼうな返事が届いた。リビングのラックにある貴重品入れを開け、お目当てのものを手に取ると東雲に向かって差し出す。


「これ、家の合鍵。東雲が持ってて」


東雲の瞳が揺れるのを見た。意外な反応だった。

「……俺が?」

「うん。もし、何か感情的な出来事があって、ううん、なくても、無かったとしても、いつかまた紛失した時に困るじゃん。東雲だったら絶対に無くさないと思うし、預けたいんだけど……駄目かな」

信頼を言葉にした。けれども東雲は未だに難しい顔をしていた。
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