レンアイゴッコ(仮)
食べ終わると、食べたからと言って東雲はお皿を洗ってくれた。もちろん、ちょっとした戦いの始まりだ。

しなくていいと止めると、腕で優しく退かされ、東雲の背後に移動させられた。


「俺、料理は無理だけど皿なら洗える」


そうして何故かドヤられた。どこで生まれた対抗心だろう。煩わしそうにネクタイを緩め、東雲は蛇口を捻る。治安悪めな目付きでパソコンを睨む東雲が、私の家で皿洗いをしている。日常の中の、ほんの些細なイレギュラー。その様子が何だか異様で、私は隣で眺めていた。

「前から思ってたけど、簡単に男を家に上げるよな」

「さすがに知らない人を上げたりしないよ」

「そー……」

東雲の語尾が霞のように消えてゆく。

何か変なことでも言ったのかと、些細な変化に少し戸惑う。

「ちなみに妃立の元彼お前ん家で皿洗ったことある?」

しかし、東雲は質問をやめない。しかも、どこに需要があるのか分からない質問だ。

「え?無いかな」

「よし」

東雲くん、腰辺りで隠したつもりだろうが、作ったガッツポーズが見えちゃってますよ?

けれども、全く気づいていない東雲は口端に上機嫌な様子を浮かべたままお皿に泡を移した。

え、本当に、何に対抗心を燃やしてるの?
何と戦って、何に勝ったの?

東雲の真意が読み取れないけれど、私も、東雲の隣に居るのをやめなかった。
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