異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
「む、むきゅう……」
「あっ。いた……!」

 ここにいるよ、と伝えるかのように。

 絞り出すような鳴き声を聞き漏らすことなく耳にしたロルティは、慌てて土の上に倒れ伏す小さな獣に寄り添った。

「大丈夫!?」
「う、きゅ……」

 閉じていた瞳が、ゆっくりと見開かれる。

 もふもふとした毛皮に覆われた小さな動物の正体は、アンゴラウサギのようだ。
 真っ白な身体には所々血が付着しており、一目で怪我をしているのが見て取れる。

「大変……!」

 傷口は毛先が長すぎて、ぱっと見ただけでは確認できなかった。

 ――ロルティは見習い聖女として幼い頃から修行を積んでいるが、医者ではない。
 傷口を聖なる力で癒やすことはできても、それが身体にどんな悪影響を及ぼしているかまではわからないのだ。

(神殿に居た時は、おとうしゃまの許可なく聖なる力を使うなって、言われていたけど……)

 ロルティはすでに、神殿から追放された身だ。
 誰の許可もなく自分の意思で、聖なる力を使える。

(わたしはこの子を、助けたい!)

 自分の気持ちに素直になろうと決めた彼女はゆっくりと目を瞑ると、痛みで全身を震わせる小さな身体を抱きしめた。
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