異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
「泣かないで、ロルティ」
「おにいしゃま……?」

 かわいい妹が先程までの元気いっぱいな様子から一転して、悲しみに明け暮れていることを知ったからだろう。
 ジュロドは、彼女に駆け寄ると優しく抱きしめた。

 潤んだ瞳で兄を見つめれば、優しく微笑んだあとにロルティに救いの手を差し伸べてくれる。

「僕がこの子と一緒に、お留守番をしてあげる」
「いいの……?」
「うん。父さんはロルティの保護者として、そばに出ないと駄目だろ?」
「おにいしゃま……」
「その代わり。父さんと相談して、僕とお揃いの物をお土産として買ってくること!」

 ジュロドは妹に、笑顔で薬指を差し出した。

 それが指切りの約束をするためだと気づいたロルティは、口元を緩めて自らの指先を絡める。
 お決まりのフレーズを歌って小指を離せば、彼女の小さな身体は父親によって抱き上げられた。

「わわ……っ。パパ!」
「ジュロド。俺とロルティが不在の間、悪さをしようなどとは考えるなよ」
「もちろん。大人しく待ってる」
「きゅぅ……」

 不安そうな鳴き声をあげるアンゴラウサギと兄にひらひらと手を振ったロルティは公爵邸をあとにすると、馬車に乗って街を目指した。

 *

「わぁ……!」

 父親に抱きかかえられた馬車を降り立ったロルティは人が行き交う城下町を前にしてキラキラと瞳を輝かせた。

「すごーい! いろんな服を来た人が、いっぱいだー!」

 彼女は幼い頃から神殿で暮らしていたため、神官や聖騎士の服を身に着けた大人達の姿しか見たことがなかったのだ。
 ドレスや燕尾服、平民が身につける麻布の衣装など――目の前には未知の世界が広がっている。

「こんなにキラキラしたところに来るの、初めて!」
「この光景が……?」
「うんっ!」

 ジェナロにとっては当たり前で気にも止める必要のない風景であったとしても、ロルティには何もかもが新鮮に映る。

(うさぎしゃんとおにいしゃまと、カイブルが一緒にいたら……。もっと楽しかったのに……)

 ロルティはしょんぼりと肩を落としながら、今は目の前の出来事を楽しむことだけに集中しようと決めた。

「おにいしゃまと、お揃いのお土産。何がいいかなぁ?」
「ロルティが欲しい物を買えばいい」
「そうなの?」
「ああ」
「うーん……」

 ロルティは唸りながら何度も考えるが、望むものはうまく頭の中に浮かんで来なかった。
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