おれは“祓えない退魔師”

第十七話

 「肩を回せ」
 「お、おう」

 なんの抵抗もなく肩を回してきた。

 (ええ……気にしてたの俺だけ?)

 俺も肩を回し、再び歩き出す。

 「いち、に」

 今度は、ちゃんとタイミングを合わせる。さっきより、ほんの少しだけ進みやすい。

 「……もう少し、ゆっくり」
 「……わかった」

 銀髪の歩幅が、わずかに落ちた。

 (合わせた……?)

 その変化に気づいて、少し驚く。

 「いち、に、いち、に」

 さっきよりスムーズに進む。完全じゃないけど、確実にマシになっていた。

 「……悪くないな」
 「だろ」

 気づけば、少しだけ息が合っていた。山道を進みながら、風が頬をなでる。隣にいるのは、相変わらず無愛想な銀髪。

 (さっきより、やりやすい、かも……)

 「おい、後ろ」

 ゆっくり走りながら銀髪が言う。後ろを振り返るとーー

 「げっ!」

 たくさんの黒っぽい影が、距離を取って俺たちを追いかけてきていた。二人三脚に必死で気づかなかった。

 「昼食のカレーのおかげで近づけないようだ」
 「あ、スパイス浄化カレー!」

 胡散臭い校長オリジナルメニューが、まさかこんな風に役立つなんて。

 「校長さまさま、だな」

 隣の銀髪をみると、表情が柔らかくなっている。ような気がした。

 「油断するな。いつカレーの効果が切れるかわからない」

 すぐにいつもの冷たい顔に戻った。

 「おどすなよ……」

 途中でつまづきながらもなんとか山を一周し、ゴールの校門にたどり着いた。学校の敷地内に入ると、もう黒い影は追ってこなくなった(学校の結界により入れない)。結果はビリ。
 先にゴールしていた東間と伊都が、ゆっくりとこちらにやってきた。

 「おつかれ~」
 「二人とも大丈夫? ぼくはもう、一歩も、歩けない……」

 伊都はよろよろと東間にもたれかかり、東間は当たり前のように伊都を支える。
 銀髪が素早く紐を解いて、やっと離れられた。

 「大丈夫だ、問題ない」

 そう言いながらも、少し疲れた様子で、先生に紐を返しに行った。

 「どうや? ちょっとはバディらしくなったか?」
 「まぁ、マシにはなったかな」

 くっついていたおかげで、少し銀髪のことを知れた。

 「俺は、誰とも組まない」

 いつの間に戻ってきたのか、銀髪は俺たちに向かって冷たく言い放つ。

 「はい、今日はここまで! みんないい感じにバディの息、合ってきたから、この調子で次の授業もがんばりましょー! では、気をつけて戻ってねー!」

 先生の一言で解散になり、銀髪はさっさと校舎に戻ってく。

 「頑固やなぁ~。こうも拒否されると、逆に燃えへん? 意地でも俺と組みたいって思わせたろか!って」

 東間の言葉を聞いて、少し考える。あいつはたぶん、俺自身を拒否してるわけじゃない。

 「……あいつさ、あんなんだからわかりにくいけど、俺たちを嫌ってるわけじゃないんだよな」

 東間は意外そうに目を丸くした後、へぇ~と興味深そうにうなずいた。

 「なんか事情があるんかな~」

 遠ざかっていく銀髪の背中はまっすぐ伸びているけれど、少しだけ寂しそうだった。
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