おれは“祓えない退魔師”
第十八話
「はぁ~!」
早朝の座禅修行を終え、外に出て伸びをする。4月も後半に差し掛かっているのに、山の中は空気がひんやりしていて肌寒い。
この学校にきて二週間が経った。個性的なルームメイトに強キャラな先生たち、専門的な授業に時々現れる妖。最初はどうなることかと思ったけど、なんだかんだで慣れてきた。俺って、意外と適応能力があるんだな。
座禅修行も毎日続けている。なんとなくだけど、霊力の流れもつかめそうだ。
「あ、伊都?」
体育館の裏に人影をみつけ、近づいてみると伊都だった。土の山に花を供え、その前に座り目をつむって手を合わせている。墓、だろうか。
「……っ!? た、祐くん!!」
目を開けた伊都と目が合った。
「よっ」
「居るなら声かけてよ。びっくりするでしょ」
「これ、だれかの墓?」
俺も同じように手を合わせる。
「うん、この子のお墓」
伊都の視線の先に、弱弱しい白い影が、ふわふわと浮いていた。
「ずーっと昔、ここで飼われてたうさぎ。学校に結界が張られてるから、ここから出られなくなって、ふわふわ漂ってる」
「祓わないのか?」
伊都は少しの沈黙の後、口を開いた。
「……ぼくね、霊や妖の心がみえるの」
「心?」
「あ、心っていうか、想い、かな。ほとんどが、現世への未練で、悲しいとか寂しいとか、怖い苦しい悔しい。マイナスの感情が多い」
「へぇ~すげぇじゃん」
伊都は戸惑いながらも、照れくさそうに笑った。
「憑かれると、そういうのがイメージとして身体に入ってくるんだ。だから、感情移入しちゃって祓えないんだよね」
「そうだったのか」
「なんとか未練を取り除いてあげられたらいいんだけど」
ふわふわしていた白い影は、小さな光になって徐々に消えていった。ほんのりと甘い匂いを残して。
「自然に幽世に還るのが一番だもんね」
伊都は影が消えた方を見て、満足げに笑う。
「やっぱすげぇな」
伊都は、不思議そうに大きな目をぱちぱちさせている。
「俺はそこまで考えらんねぇよ。目の前のことに対処するのにいっぱいいっぱい」
伊都の頭に手をのせる。
「優しいな、伊都は」
少しだけ伊都の瞳が揺れて、すぐに下を向いてしまった。
「違うよ。優しくなんかない」
ふるふると力なく首を振る。
「小さいころの自分をみてるみたいな気持ちになるんだ。いじめられて泣いているぼく、助けたいって思ってるけど、うまくできなくて……」
言葉に詰まり、瞳に涙がたまっていく。どこからかコンが現れてキュイキュイと鳴き、伊都の頬にすり寄っている。
「だから、ここに来たのに……」
ゆらゆらと瞳が揺れて、今にも涙があふれだしそうだ。そんな伊都をみて、俺はぎゅっと胸が痛くなった。
「……できるかわかんないけどさ、伊都は伊都の方法でやっていけばいいんじゃねぇの?」
伊都はゆっくりとめをつむり、目尻からぽろぽろと涙が落ちる。
「俺も一緒に考えるからさ」
伊都は静かにうなずいて、ぎゅっとコンを抱きしめた。
「……俺はさ、母さんを守るためにここに来たんだ」
「……っ、祐くんのお母さん?」
「退魔師だったんだけど、俺を庇って大けがして、霊力もほとんどなくなった」
「え、そんなことってーー」
「本当は続けたかったんだと思う。なのに、引退しちゃってさ……それでも、妖は襲ってくるからさ」
「……」
「だから、俺が退魔師になって母さんを守るんだ」
「……そっかぁ。祐くんなら大丈夫だよ」
「だといいけどーーあ、これ内緒な? 話したの、伊都が初めてだから」
「わかった。しーっだね」
俺と伊都は、唇に人差し指を当ててクスクス笑い合った。
早朝の座禅修行を終え、外に出て伸びをする。4月も後半に差し掛かっているのに、山の中は空気がひんやりしていて肌寒い。
この学校にきて二週間が経った。個性的なルームメイトに強キャラな先生たち、専門的な授業に時々現れる妖。最初はどうなることかと思ったけど、なんだかんだで慣れてきた。俺って、意外と適応能力があるんだな。
座禅修行も毎日続けている。なんとなくだけど、霊力の流れもつかめそうだ。
「あ、伊都?」
体育館の裏に人影をみつけ、近づいてみると伊都だった。土の山に花を供え、その前に座り目をつむって手を合わせている。墓、だろうか。
「……っ!? た、祐くん!!」
目を開けた伊都と目が合った。
「よっ」
「居るなら声かけてよ。びっくりするでしょ」
「これ、だれかの墓?」
俺も同じように手を合わせる。
「うん、この子のお墓」
伊都の視線の先に、弱弱しい白い影が、ふわふわと浮いていた。
「ずーっと昔、ここで飼われてたうさぎ。学校に結界が張られてるから、ここから出られなくなって、ふわふわ漂ってる」
「祓わないのか?」
伊都は少しの沈黙の後、口を開いた。
「……ぼくね、霊や妖の心がみえるの」
「心?」
「あ、心っていうか、想い、かな。ほとんどが、現世への未練で、悲しいとか寂しいとか、怖い苦しい悔しい。マイナスの感情が多い」
「へぇ~すげぇじゃん」
伊都は戸惑いながらも、照れくさそうに笑った。
「憑かれると、そういうのがイメージとして身体に入ってくるんだ。だから、感情移入しちゃって祓えないんだよね」
「そうだったのか」
「なんとか未練を取り除いてあげられたらいいんだけど」
ふわふわしていた白い影は、小さな光になって徐々に消えていった。ほんのりと甘い匂いを残して。
「自然に幽世に還るのが一番だもんね」
伊都は影が消えた方を見て、満足げに笑う。
「やっぱすげぇな」
伊都は、不思議そうに大きな目をぱちぱちさせている。
「俺はそこまで考えらんねぇよ。目の前のことに対処するのにいっぱいいっぱい」
伊都の頭に手をのせる。
「優しいな、伊都は」
少しだけ伊都の瞳が揺れて、すぐに下を向いてしまった。
「違うよ。優しくなんかない」
ふるふると力なく首を振る。
「小さいころの自分をみてるみたいな気持ちになるんだ。いじめられて泣いているぼく、助けたいって思ってるけど、うまくできなくて……」
言葉に詰まり、瞳に涙がたまっていく。どこからかコンが現れてキュイキュイと鳴き、伊都の頬にすり寄っている。
「だから、ここに来たのに……」
ゆらゆらと瞳が揺れて、今にも涙があふれだしそうだ。そんな伊都をみて、俺はぎゅっと胸が痛くなった。
「……できるかわかんないけどさ、伊都は伊都の方法でやっていけばいいんじゃねぇの?」
伊都はゆっくりとめをつむり、目尻からぽろぽろと涙が落ちる。
「俺も一緒に考えるからさ」
伊都は静かにうなずいて、ぎゅっとコンを抱きしめた。
「……俺はさ、母さんを守るためにここに来たんだ」
「……っ、祐くんのお母さん?」
「退魔師だったんだけど、俺を庇って大けがして、霊力もほとんどなくなった」
「え、そんなことってーー」
「本当は続けたかったんだと思う。なのに、引退しちゃってさ……それでも、妖は襲ってくるからさ」
「……」
「だから、俺が退魔師になって母さんを守るんだ」
「……そっかぁ。祐くんなら大丈夫だよ」
「だといいけどーーあ、これ内緒な? 話したの、伊都が初めてだから」
「わかった。しーっだね」
俺と伊都は、唇に人差し指を当ててクスクス笑い合った。