おれは“祓えない退魔師”

第一話

 山道を登り続けて、もうどれくらい経ったかわからない。
 足はパンパンだし、息も上がりっぱなしだ。

 俺、神代(かみしろ)(たすく)は、今日から退魔師養成学園(全寮制の男子中学)に入学する。

 退魔師――妖や霊を祓う力を持った、ちょっと普通じゃない連中のことだ。
 その修行をするために、わざわざこんな山奥まで来ているわけなんだけど――

 「遠すぎだろ……!」

 この学園、山の頂上にあるらしい。
 らしい、っていうのは――

 「全然着かねぇんだよ!!」

 さっきからずっと登ってるのに、頂上が見える気配すらない。

 「道、まちがえてんじゃねぇの?」

 ポケットからスマホを取り出す。
 画面の右上には、しっかり“圏外”の文字。

 「クソがー!!」

 思わず地面に叩きつけそうになって、ギリギリで止めた。
 連絡用に母さんが持たせてくれたのに、これじゃ意味がない。

 (それにしても、あちぃなぁ……この制服どうにかなんないのかよ)

 退魔師の学校だから、かっこいいのを期待していたのに

 (今どき真っ黒な学ランって……しかも丈短いし……)

 『ねぇ、あそぼうよ』

 汗をふきながら途方に暮れていると、背後から子どもの声が聞こえた。耳の奥が、じんとする。

 (これって……アレだよな……)

 リュックを背負いなおす。なにも考えないようにして、ひたすら歩いた。

 『あーそぼっ』

 (無視だ無視。俺は何も聞こえない)

 ホラー映画ならこういう時、振り向いたら最後。叫び声だけを残して姿を消してしまう。そしてこの人物は二度と出てこない(ホラー映画なんて見たことないけど)。

 (いやだ。まだ学校にも着いてないのに、こんなところで死ねるかよ)

 『ねぇってば』

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ

 いつの間にか足音が増えて、それはだんだん俺に迫ってくる。

 (こういうの、無理なんだって!)

 ふっと首の後ろに、冷たい息がかかる。ビクッ、と心臓が跳ねた。

 (無理無理無理無理!!)

 恐怖で止まりそうになる足をなんとか動かして早歩き。

 『ねぇねぇねぇねぇ』

 「うるっせーよ!無理だっつーの!」

 叫びながらうす暗い山道を全力で走る。止まったら終わりだ。

 (きつい、苦しい、怖い。でもーー)

 拳をぎゅっと握り、歯を食いしばる。

 「はぁ、はぁ、っ、死ぬよりマシだー!」

 しばらく走っていると、学校の門がみえた。

 (た、助かったー)

 門をくぐり、振り返ってみるとなにもいなかった。安心してその場に座り込む。

 「はぁ~マジで死ぬかと思った」

 息を整えながら周りを見回す。目の前には木造二階建ての校舎。ボロボロで今にもつぶれそうだ。その隣に体育館とやたら大きな屋敷があった。全寮制と聞いていたから、あれが寮かもしれない。

 「おーい、大丈夫か?」

 すぐ前を歩いていた男子が声をかけてきた。俺より背が高くて大人っぽい。糸目で、髪を一つに結っている。その背中には、ぐったりとした誰かを背負っていた。

 「……え、それ、どうした?」
 「途中で倒れとってなぁ」

 よく見ると。小柄で中性的な顔立ちの子だ。色白でふわふわした茶色の髪をしている。

 「たぶん、なにかに憑かれてるわ」
 「は?」

 もしかして、俺を追いかけてきた奴ーーそのうちの一つに憑かれたのかもしれない。

 「ちょっと手伝ってくれへん?」

 少し迷う。せっかく逃げ切れたのに、関わったらまた怖い目に遭うかもしれない。
 でもーーその子の顔が、青白く、苦しそうに歪んでいた。

 (……放っとけるかよ)

 「わかった。荷物持つ」
 「ありがとう、助かるわぁ」

 そこへ、すっと一人の男子が通り過ぎた。姿勢がよく、凛とした雰囲気をまとっている。特徴的な銀髪に目を奪われていると

 「なぁ、保健室どこにあるか知らん?」

 糸目の男子が銀髪にたずねた。振り向いた銀髪は冷たい眼差しを俺たちに向ける。

 「そいつは山狐に憑かれている。自業自得だ。放っておけ」
 「は?」
 「退魔師としての自覚がないんだ。関わる必要はない」

 そう冷たく言い捨てると、俺たちを置いてさっさと去っていった。

 「なんだよあいつ、感じワル」
 「へぇ~おもろそうな子やな」
 「どこがだよ!」
 「なんか、きみと気が合いそうやね」
 「はぁ!? あんな奴、頼まれてもお断りだ」

 俺たちの言葉が聞こえているのかいないのか、銀髪野郎は振り向きもせず校舎に入っていった。

 (なんで、あんな言い方しかできないんだよ)

 「ほな、行こか」
 「おう」

 モヤモヤする気持ちを抱えて、俺たちは保健室へ向かった。

 (……変な奴ばっかでやっていけるか心配だ)

 母さんの顔を思い浮かべる。きゅっと唇を引き結んだ。

 怖いけど、やっていくしかない。
 俺は、退魔師にならなきゃいけないんだから。
< 2 / 37 >

この作品をシェア

pagetop